光の風 〈黒竜篇〉-8
その様子を千羅は黙ってみていた。彼も同じように頭の中で考えをめぐらせる。
「貴様…知りすぎている。何者だ?」
フェスラの声に余裕の色がなくなり真剣になった。一点にカルサを見る。カルサは黙ったまま顔をフェスラに向けた。
「…さあ、誰だろうな?」
カルサは試すように笑う。その表情は恐怖と迄はいかないが、十分にフェスラを威圧させた。
カルサは今までと一変し、余裕のある態度が出始めた。その鮮やかな金色の瞳が輝く。
「金色の瞳…覚えがある。…しかし貴様は奴ではない。」
立場が少しずつ逆転していくのが分かる。千羅(せんら)は目の前で起こっている事を黙って見守った。カルサは必ず何か決定的な手を持っている、千羅には確信があった。
「黒の竜王フェスラ。何故ここに現れた?ここで何をするつもりだ?」
「それを知ってどうする?」
「もちろん、ここでお前を始末するさ。」
そう言うとカルサは右手をかざし、その手に剣を召喚した。剣をかまえ、剣先をフェスラに向ける。
「大した自信だな。」
黒の竜王は動じはしなかった。カルサは剣を構え直し、フェスラに切りかかる。
フェスラは鮮やかにかわし、カルサを飛び越え窓に手を掛けた。
「今宵は月が綺麗だな、小僧。」
そう言うと窓から外へ飛び出した。カルサも千羅もすぐに後を追う。
フェスラには一つの可能性がよぎっていた。金色の瞳をもつ青年、カルサの正体について。
やがて城の一番広い建屋の屋根に辿り着いた時、フェスラを光の矢が襲った。それを巧みにかわし、矢の元を確認する。
剣を手にしたカルサと千羅がいた。
「かつての巨大な力を持つ神官が逃げるのか?」
挑発するようにカルサは少しずつ近づく。その姿に確信がより強くなる。
「貴様…オフカルス第一皇子・カルサだな?」
フェスラの言葉にカルサの足は止まる。その行動こそが認めたようなものだった。
「姿は違えど、間違いない。その瞳、その力、その雰囲気…まぎれもなくカルサそのもの。」
フェスラの断言にカルサは黙っていた。そして静かに笑いだす。静かな夜に、その声は不気味に響いた。
「…カルサ、ね。カルサだよ?オレは。このシードゥルサ国国王カルサ・トルナスさ。」
カルサは剣をかまえ、フェスラを威嚇する。