光の風 〈黒竜篇〉-2
カルサの言葉を信じようとするが、正体の分からない恐怖に負けてしまう。あの声は誰なのか。あの闇は何なんなのか。
「私を探しているのかしら…?」
当然の疑問を呟いてしまう。何度となくあの夢を見るのは、自分を求めているからと考えるのが正しい。でも何の為に?
「いや、何とも言えないだろう。」
カルサの声も少し張り詰めているようだった。だが反して言えば、他に心当たりがあるようにも思える。
リュナはただ自分の不安がおさまるように体をカルサに預けた。カルサもそれを暖かく受けとめ、少しでも不安を取り除けるようにリュナの頭をあやすようになでた。
「リュナ、五大元素の力って分かるか?」
「五大元素の力?ううん、何の事?」
カルサの突然の問いにリュナは体を離し、カルサを見上げた。カルサはバルコニーの手摺りに手を乗せ、美しく広がる中庭を見下ろした。
続くようにリュナも隣に行き中庭を見下ろす。
「オレたち御剣(みつるぎ)の中でも特に力が強いとされているもの。火、水、風、地、光、この五つの力が五大元素の力と呼ばれている。」
「風…。」
「そう、オレは光、リュナは風。二人共が五大元素の力を持っている。」
リュナは突然の大きな話に実感がわかないようだった。大きな目を開いてカルサを見ている。
「五大元素の力には精霊が宿っていて、もしかしたらその夢は精霊がリュナを探しているのかもしれないな。」
カルサは安心させるように優しい笑顔でリュナに可能性のひとつを投げかけた。
「精霊…?」
予想もしなかった可能性にリュナは引き込まれた。もっと知りたい、瞳がそうカルサに訴えている。
「風の精霊、五大元素の中で一番優しくて穏やかと言われている。リュナにぴったりだな。」
カルサの言葉にリュナは思わず顔を赤くした。そして空を見つめ、風に身を任せた。どこかにいるであろう精霊に思いを馳せる。
「…だったらいいな。」
その表情は柔らかく、さっきまで怯えていたとは思えないほどだった。
リュナの笑顔につられて、カルサも思わず微笑む。
「あ、いけない。私やることがあったんだ。ごめんねカルサ、私行ってくる!」
「ああ。がんばれよ。」
すっかり元気を取り戻したリュナは、カルサに手を振ったあと目的の場所へ走っていった。その様子を優しく見守るカルサ、その心中は複雑だった。
「とても可能性の低い話をされるんですね、皇子。」
「千羅(せんら)か。」
からかうように嫌味を吐きながら現れた、千羅と呼ばれた人物は、何の気配を感じさせることもなく、いつのまにかカルサの横に立っていた。