災い転じてまた災い!?-8
「ちょっと待てコラ……!」
「あれ、何やってんの?」
できるだけ凄みをきかせて、腹の底から出したつもりの声が、軽い飄々とした声にかき消された。
ん?
俺の口からでも、ナンパ三人衆の口からでも出たわけじゃないその声は、俺よりも後ろの方から聞こえてきて、みんながみんな、一斉に後ろを振り返ると……。
「遅いからさー、迎えに来たよん」
なんて、腰に手を当てて立っていた州作さんの姿があった。
「州作さん……」
「何、沙織ちゃんナンパされてたの?」
涼しい顔してこちらに向かってくる州作さんは、沙織の方を見ながらそう言った。
あんなにガラの悪そうな人達を目にしても、全く臆することのない彼は、俺をチラッと一瞥しただけで横をすり抜けていった。
それだけなのに、何故かどうしようもなく屈辱を味わわせられたような気がした。
“ナンパ男から助けてやることもできねえのかよ”
州作さんののゴツゴツ骨ばった背中に、そんな風に書いてあるような気がして、ギリッと奥歯を噛み締めた。
「お、おい……、この娘、歩仁内さんの知り合いだったのかよ……」
「……やべえじゃん」
一方、前の方からそんなやり取りが聞こえてくる。
んん?
あたふたし始める三人衆の前に立ちはだかるように州作さんがやって来ると、
「久しぶり、別所くん」
なんて、フランクにマッチョの二の腕辺りをポンポン叩いていた。
「お、お久しぶりです、歩仁内さん」
へへへと媚びるように笑ったマッチョは、そのデカイ図体を縮こませ、ただただヘラヘラ頭を下げていた。
「お久しぶりです!」
つられてタトゥーも坊主も、深々と頭を下げる。
「造田(ぞうだ)くんも蛭間(ひるま)くんも、随分チャラくなっちゃったねえ〜」
なんて、カラカラ笑う州作さんを、俺と沙織はあんぐりと口を開けたまま眺めていた。