そっと眠れる森の美少女のように-3
清華院女学校の総生徒数は1000人を超える。
一学年二クラスで桜組と藤組が各学年に存在し、一クラス三十人前後で幼年部から大学部まである。
ざっと36クラスが存在するのである。
因みに俺が籍を置くのは高等部一年の桜組で、今さらいう事でもないが有栖川麗子と天空橋愛佳が同じクラスである。
そこに一部の父兄から貴重な庶民サンプルが一クラスに縛られるのは、不平等であると言う意見が出たらしい?
確かに清華院全体に対しての役割を担う事になっている事が、大義名分である以上もっともな意見でもある。
それは生徒であるお嬢様たちの好奇心的欲求としては少なからず真実で、遅かれ早かれ表面化する問題でもあった。
しかしそれは父兄たちには表向きな問題提起で、その実複雑な思惑を孕んでいたのだ。
幼年部や初等部はともかく中等部以上のお嬢様の父兄たちは、程度の差こそあれ少なからずこう思うのである。
「九条様とお近づきになるまたとない機会である。在校中に少なからず交流を深めたい。そしてあわよくば……」
それは当然の反応であるのかもしれなかった。
九条家の人間が表に現れる事は少なく、それも次期当主。
各家において交流を持ち、親交を深めるまたとない機会と思われたのである。
「おひさしゅうございます、公人さま…… いいえ、今は“九条様”とお呼びすべきですわね?」
“麗子”から発せられたそのどことなく冷たい言葉に、少なからず俺の中に残っていた甘ったるい感情が音も無く消え失せた。
同時に遠い過去に想いを馳せていた意識を今現在にしっかり呼び戻してくれた。
再び清華院女学校に訪れ一時間も経たずに、俺は感傷的になっていたようである。
「あい、れい、れん、元気にしていたかい?」
霧生さんの言葉に些か萎縮してしまった三人の少女に、俺は膝を折り目線を合わせてから優しく語りかける。
『『『はい、おとうさま』』』
三人の幼い少女たちは、そう嬉しげに応えると満面の笑みを浮かべ抱きついて来た。
※次回(仮)たったひとつの冴えた選択の様に へ つづく
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今回の更新は10月2日、次回更新は10月16日前後を予定しています。