甘い口溶けを貴方と…-3
その後授業時間となったものの、休み時間になる度に純一は呼び出しを承けては、手に包みを持って教室に戻ってきた。
純一とはクラスも同じなのだが、そんな純一の姿を見る度その度にテンションが下がるのが分かる。
もう誰かの告白を受けちゃったのかな……”
梓はそんな純一を遠目に見ては机に突っ伏していた。
「──中野君、チョットいいかなぁ?」
また、だ。これで何回目なのだろう。全くもって、お菓子会社はこんな記念日みたいな日を設けたのだろうか。そんな悪態を内心で付きながら、背後から友人らの冷やかしや罵声まで浴びつつ、それを受ける。
結局皆同じ。言いたいことは唯一つ。“ずっと好きでした。付き合って下さい”。
俺の返答も同じ、基本的には同じもの。
「ごめんなさい」
それでも、折角俺なんかの為に作ってくれたチョコレートだ、と思うと、プレゼントまで無気に断るのは忍びない。ということで俺は毎度の如く、その人の気持ちの替わり、と言っては失礼だろうけど、チョコレートだけ受け取り教室へ戻るのだ。
教室に戻ってくると、例によって例の如く友人らに冷やかされる純一。毎度毎度よく飽きないなぁ、と感じるものだがとりあえず無視する。
「ハァ……」
純一はそのまま自分の席について思わず溜め息をついてしまう。彼のカバンの中は既に勉強道具は埋もれて、見えるのはチョコレートのみ、そんな状態になってしまった。
端から見ると、羨ましい状況ではある。
朝の靴箱の状況の凄まじいこと。確かに今まで16年生きてきた中でチョコを貰わなかったわけではない、だが靴箱から溢れかえるほどの個数は貰ったことはない。
一般的な思考に基づくと、貰えれば嬉しいのは当然である。だが、教室に戻る純一の表情は晴れない。
まず、靴箱に“投函”という渡し方が純一はあまり好きでないのだ。出来れば、勇気を出して手渡しでくれるほうが嬉しいのである。
──最も『勇気を出す・出さなければ』というのは自分にも当てはまることだが。
そして、純一の気分が沈み気味である一番の理由は、そんな状況を自分の隣で梓が見ていたことである。
しかも、梓に『人気者ね』と冷やかされてしまった。梓に好意を寄せる純一にとっては、かなりショックを与えた一言だった。
やはり梓にとって自分は“ただの幼なじみ”でしかないのだろうか。俄かにそういう気持ちが大きくなってきた。
やはり、本心としては今の単なる幼なじみの関係ではなく、もう一、二歩進んだ関係になりたい。梓を自分の彼女にしたい、という微かな独占欲が存在するのは、紛れもない事実である。
だが問題が生じる。それは“梓の気持ちはどうなのか”である。
自分の気持ちに正直になれれば良いのだが、その行動によって今の状態さえ崩壊したら。それだけならまだ良い、結果として梓の心に傷を負わせてしまったら。そういう事態は避けたい。
例え、自分が傷つこうとも、梓には、愛する梓の心にだけは傷を負わせたくないのだ。
世の男どもがチョコが貰えない、等と騒いでいるなかで、チョコレートを貰ってうなだれる姿は何とも珍しく、そして“羨ましい”ものだ。
そんな世にも珍しい滑稽な姿を見ていられず、一人の男子が純一の元に近付いていった。
「おいおい、な〜にをそんなに沈んでる?」
純一が顔を上げるとそこには幼なじみであり、親友の姿があった。