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天神様は恋も占う?
【青春 恋愛小説】

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甘い口溶けを貴方と…-2

 「いってきまーす!」
 学生カバンにチョコを入れ学校へ向かう。だがその前に梓には行くところがある。それは純一の家。何を隠そう、梓と純一は幼なじみである。それはそれは長い付き合いで、幼稚園に上がる前から一緒に遊んだ仲なのだ。かれこれ現在高二まで、それこそ『生まれたときから』の仲である。
 もちろん小学校に入学してからも一緒に登校し、帰りも小学校の時は毎日、中学に上がってからは部活とかが無かったりして時間が合うときは、必ず一緒に帰った。ちなみに純一は野球部、梓はテニス部に所属していた。
 ほんの数分歩くとそこは純一の家だ。近付いていくにつれ、何者かが門扉に寄りかかっているのが見えてきた。彼が中野純一、その人である。体格は標準的だが、キリリとしたその顔。好きな人の顔というものは誰もが若干贔屓めに見てしまうが、純一の場合、10人中最低でも7人、多ければ全員が良い顔に分類する、そんな顔つきだ。朝に強く、眠気とはまるで無縁である。
 「おっはよー、純一!!」
 「おう、おはよう」
 元気一杯な梓の挨拶に爽やかに応える純一。いつもその笑顔に胸がトキメクものだが、今日は取り分けドキドキする。これも“バレンタインデー・マジック”というものなのか。
 いつも爽やかな笑顔をくれる純一。その微笑みも今は自分だけに注がれている、そう思うと例えようもなく嬉しい。だが、普段も皆を第一に考えて行動し男女問わず微笑みかける姿を一目見ると、今度は不安にさいなまれる。
 “ねぇ、純一の好きな人は誰?"
 ──そう聞くことができたなら。
“私は純一が大好きだよ”
 ──そう言うことができたなら。
 でも、そのたった一言で今の関係が跡形も無く崩れ去ってしまったら……。その恐怖から今までは尋ねることも告白することもできなかったのだ。そうさせるのは、幼なじみという、よく言えば気楽な関係で、悪く言えば高くそびえる壁なのだ。
 でも今年は違う。だって、今梓のカバンの中には純一への本気チョコがあるのだから。新年初詣の時にひいたおみくじに従って積極的にいこうとした結果、今年こそは、と意気込み作った手作りチョコだ。

 さて、いつも通りの通りを歩き、いつも通りの街の喧騒を眺めつつ、いつも通りに談笑し、いつも通りの時刻に学校に着いた二人。
 ここまでは頗る普段通りだったが、玄関に入った途端、日常は音を立てて一転した。

 「すご……」
 梓は思わず絶句した。純一に至っては開いた口がふさがらない状態である。
 いつでも元気ハツラツな梓をも絶句させたもの、それは純一の靴箱につめられた、暖色系、とりわけ桃色の包装紙に包まれた箱であった。
 どうみても、今日日の時世から察するに、“愛の告白"であろう。
 しかし、である。その暖色系の箱の数が常軌を逸しているのだ。およそ二桁になろうと言う数の“愛の告白”が純一の靴箱に詰まっていた。おまけに、よくよく下を見てみると、まだ数個靴箱に入りきらなかったチョコが落ちているではないか。これは、既に靴箱とは言えない状況だろう。何せ純一の靴が見当たらないほどだ。
 「ひゃぁ〜……、今年は一段と多いや」
 「今年は、って、純一去年はいくつ貰ったのよ?」
 「えぇ〜と、数えるほどしか無かったと思うぞ。今年に比べたら」
 俄かに梓の心中は漣を立てる。今年のこのチョコの数にも度肝を抜かれたが、それより、自分の知らないところで純一がチョコを貰っていたことがショックだった。
 「そう、人気者なのね純一」
 自らの胸の内を隠そうと、可愛い気の無い事を言ってしまった。しかし、こうでも言わないと平常心を保っていられない、梓はそんな心境だ。
 「ははは……」
 乾いた声を出しつつ笑う純一。その表情はどこか寂しげな雰囲気をおびていた。だが、梓にはその表情やムードを読み取ることは出来なかった、いや出来るわけが無かった。
 最も、それだけ梓の胸中も全く穏やかで無かったことの裏返しであるのだ。


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