紅館番外編〜始まり〜-14
『つまり、どういうことなんだい?』
『今は大丈夫。 でも………………ごめんなさい、彼女は、たぶん長くてもあと20年の命よ。』
20年、その言葉に私は絶望しかけた。 やっと何百年も一緒に居られる相手に会えたのに、あと20年だなんて………
『………いや、アルクウェルが謝ることじゃない。
20年。 でも、私は気付いたんだ。』
そう、大切なのは時間じゃない。 その一分一秒を大事にする気持ちなんだと。
『………そうね、20年しかないなら、20年で、2000年分かそれ以上の思い出を作れば良いのよね………』
『あぁ、これから20年、楽しくなりそうだよ。』
私とアルクウェルが微笑みあっていたが、急にアルクウェルは不機嫌な表情になってしまった。
『………てか、私も居るのだけど?』
ん………?
『私もエルフなんだけど………』
アルクウェルはじっと私を見つめてくる。
『そうよね、貴方昔から鈍かったからね。
私があ〜〜〜んなにアピールしてたのに。 お陰で今も独身じゃない………』
うっ………また始まってしまった。
そう、昔アルクウェルは私を好きだったそうなのだ。 しかし当時の私は今よりも仕事仕事で、まったくアルクウェルの気持ちに気付けなかった。
『挙句の果て、今度は急に好きな子が出来ましたぁ? あぁ、腹が立つ! じゃね! 私、寝るわ!』
ドガチャンとドアが勢い良く閉められた。
正に嵐のよいに怒って、去って行った。
『悪いことしちゃったなぁ………』
『さいですなぁ………旦那様の恋泥棒………』
『うわっ! 料理長!』
いつの間にか私の横に居たフィナに大いに驚く、彼女………本当にわからないのだ。 気配が。
『あの人起きましたよ、って伝えよ思たんですけどぉ。』
『そ、そう………じゃあ………』
サササッとフィナの横を通ってシャルナの部屋に向かう。
『食事はどないします?』
『あ、あとで取りに行くよ!』
逃げるように部屋に入り込み、扉を閉める。
『……紅様………』
声が聞こえた。 一番聞きたかったこの声………
『シャルナ、気分は? 大丈夫?』
ベットの横にある椅子に座るとシャルナは答えるかわりに微笑んだ。
『私………幸せですわ………また紅様を見れましたもの………』
『私も、もう一度君の声が聞けてよかったよ。』
そっとシャルナの額を手で覆う。
『………私………痛くて痛くて死にそうになっていた時に………紅様のお顔が見れたから頑張れましたのよ………』
『あぁ、すまない、遅れそうになってしまって。』
『でも………間に合いましたわ………』
シャルナは私の手を取ると、握り締めた。
『なんとか、君の宗教が認められるように頑張ってみるよ。』
『………その必要ございませんのよ………
私は改宗しました………』
まだ彼女の改宗を知らなかった私は驚く他無かった。
あんなに強い決意だったのに。
『何故? やはり、生きたかった?』
『………私………宗教以外に死ぬまで貫きたいものが出来ましたの………
そして………それがイシフィア教の司祭には出来なかった………』
首を傾げて彼女の話を聞く。
『一体、何を貫きたいのかい?』
『あら………紅様………鈍感ですわ………
貴方への………愛ですわ………』
鈍いって………あぁ、確かにアルクウェルに散々言われた………って!
『私への………愛!?』
『………貴方がお嫌でも………諦めませんわ………』
とんでもない! 私は心の中で喜びに震えていた。
私の片想いだと思っていたのに………
『君も、シャルナ、君も鈍いね。
私は好きでもない女性にここまでしないよ。』
彼女は私の言葉に、口に手を当てて声にならない声をあげていた。