覚醒-5
奈緒はどことなく艶やかさを増したように見えた。それはそうだ。奈緒は抑えつけていた欲求を解放したのだ。奈緒の体から男を誘うフェロモンが一気に発せられた。
「時間は平気?」
「は、はい…。予定は全然ないんで…」
「そう。かなり遅くなるかも…。」
「だ、大丈夫です…。」
奈緒は口許を緩める。
「徹夜になるかも…」
「て、徹夜ですか…?」
「うん。明日は休みだし、私も予定ないからね…。」
そんな奈緒に翔太は何かを思い出す。何かとは…、それはまさにオナニーする時に妄想するいやらしい奈緒の姿に瓜二つである事だ。
(ま、まさか…そんな…。いや、ある訳ない!気のせいだ…!)
万が一でも奈緒が自分にそんな行為をする訳がない、そう思い妄想を振り払う。しかしこのただ事ではない雰囲気と、何とも言えない甘く歪んだ空気に翔太は動揺する。しかし頭の中はいけないことばかり浮かんでしまう。それはもはや仕方のない事だった。翔太はもはや人妻の男を狂わせるフェロモンに完全に包囲されているのだから…。
そんな翔太に奈緒は囁くように言う。
「安本君…。この前も、今日も…、私ね、見てたの…。」
ドキッとする翔太。
「な、何をですか…?」
思い出すと当たる事は一つだ。しかしあんな愚行を見られていたならもはや会社にはいられない。翔太の額からは汗が噴き出し足が竦んで来た。
「あの事よ…?」
はっきりと言わない奈緒に益々翔太は焦る。
「あの事って…」
もはや怯えていた。全身から汗が噴き出す反面、体温はどんどん下がって行くように思えた。そんな翔太に奈緒は引導を渡す。
「私のコーヒーに精子、混ぜたよね?」
「!?」
もはや終わりだと思った。あの行為を全て見られていたと思うと翔太は生きている心地がしなかった。この銀行で自分に優しく接してくれるのは奈緒だけだ。そんな奈緒を裏切るような行為をしてしまった自分を悔いた。それにこの事が明かるみになれば女子にとどまらず全員から軽蔑の眼差しで見られるだろう。もうこの銀行にはいられない…そう覚悟した。
「私の椅子の匂いを嗅ぎながらオチンチンを出してシコシコしてるトコまで、全部見てたの…」
翔太は完全に混乱した。無我夢中で床に土下座し懸命に謝る。
「ごめんなさい!すみませんでした!ごめんなさい!!」
翔太は許してもらえる、もらえないなど考える余裕もない程にひたすら謝り続けたのであった。