第七話 営倉の夜-2
「さて、じゃあ営倉へ行きますか。杉野伍長殿!」
なぜか今野は楽しそうに言った。元々こいつのせいで営倉入りになったようなものなので、杉野は憤った。
「貴様は反省が足りないんだよ」
杉野のもっともな批判も、どこ吹く風のような顔で今野は流して言った。
「営倉は慣れてるもんでね。それに、サイパンの営倉は独房じゃないんだ」
どうりで妙に楽しそうなわけか。
通常、営倉は営門の衛兵詰所の奥にあり、独房で三畳一間程度の広さだ。それが、どうやらサイパンに設置されている営倉は二人部屋らしい。二人部屋と言っても四畳半と、微妙な広さだったが。
「ほう、じゃあ二人部屋を一人で使えるわけだな」
杉野はわざとらしくボケて見せた。
「いやいや、俺と二人で入るんだ!」
一連のやり取りの後、しばし無言で見つめあい、盛大に吹き出した。
「ふははははははは!」
「ぎゃはははははは!」
こんなやり取りをしたのはいつ振りだろうか。新兵だった頃の懐かしい記憶が少しだけ脳裏に蘇る。 が、それもすぐに泡と散った。
「貴様らはとっとと営倉に入らんか、馬鹿者!!」
営倉の管理を担当する軍曹が鬼の形相で怒鳴った。
せっかく、一発で済んだ”びんた”が結局二発になってしまったのは言うまでもない。
「あの鬼軍曹、絶対後ろから撃ってやるぞ……」
ジンジン痛む右頬をさすりながら今野が恨めしそうにつぶやいた。彼は、先ほどの軍曹からの一発で、計三発、”びんた”を食らっている。
「あぁ……同感だ」
杉野も右頬をさすりながら同意する。
「おい、うるせぇぞ。もう一発ずつ欲しいのか?」
会話が聞こえたのか、鬼軍曹がおっかない顔で営倉を覗いた。
「い、いえ! なんでもありません!」
「しっかり反省しております!!」
二人はすぐさま立ち上がって気を付けの姿勢をとり、急いで誤魔化した。鬼軍曹はふんっと、鼻で笑って詰所に戻っていった。