出会い…そして……-1
「チクショウ…何で俺がこんな目に合わなきゃなんねぇだ!!」
半年前に突然の会社の倒産で職を失い、五十代と言うレッテルが邪魔をして、中々再就職も出来ず、自暴自棄になる一人の男がいた…。
男の名は「田中 国雄」
この日も職安に行ったが職にはありつけず、ブツブツと独り言を言いながら、何かと口煩い嫁の待つ家まで、重い足取りで歩いていた。
「パチンコにでも行きたいけど、失業保険ももう貰えねぇしな…。」
家のローンの支払いやらの後の残った金で、何とか食っていくだけの惨めな生活…。
「家に火をつけて保険でもかっさらうか…」
かなり精神的にも追い詰められて、犯罪を行う事にも躊躇いも無くなろうとしていた田中…。
公園のベンチに腰掛け、そのうちこいつも購入出来なくなるであろう煙草を、田中は無気力になりながら悲しげに吹かしていた…。
「…んっ……」
するとその時視界に入った、小さな買い物袋を片手にした一人の女の姿。
髪型は黒髪のショートで、身長はさほど高くない。
薄い水色のワンピースに白いカーディガンを羽織り、ベージュのパンストにサンダル姿で、仄かな香水の香りを残して、目の前を通り過ぎて行く。
田中は自然にベンチから腰を上げると、女の後を追って歩き始める…。
昼間であまり表に人も居ない、静まりかえった住宅街で後を追っていた女は、一軒の住宅へと姿を消していった…。
女の消えた住宅を見ると、車庫に車の姿は無く、玄関先になど、自転車などは置いていない。
そっと門を開き、玄関に近づくと、庭に子供の玩具は無く、干してある洗濯物も二人分程度しかかかっていない。
この時、前に勤めていた工場で着ていたドカジャン姿の田中は、腕を上げて玄関のインターホンを鳴らす。
「はい、どちら様でしょうか?」
インターホン越しに聞こえてきた女の声に、俺は宅急便の配達に来たとハッタリを告げると、少しの間を置いて
「カチャ……ガチャン…」
と鍵の音がして玄関が開く…。
「何の疑いも無く、戸を開いたお前が悪いんだ!!
俺を恨むんじゃねぇよ。」
田中はそう言い放って、女の口を塞ぎながら家の中へ強引に侵入すると、女の身体をすぐに羽交い締めにする。
「静かにしていればよ、まぁ命までは取らねぇからな…」
田中は小声で囁くと、恐怖で震えて頷く女を羽交い締めにしたまま、引きずる様にして家の奥まで侵入すると、台所で包丁を一本手にして女の喉元へちらつかせる。
「要るのは現金と金目の物だ。
有るだけ用意すればいい…。」
田中の要求に女はテーブルの上にあるブランド物の財布から、震える手で札を取り出す。
「後は…私の貴金属とかしかありません……。
二階にあるので取ってきます…」
涙声で怯えながら話す女を開放して、田中が貴金属を取りに行かせようとしたその時だった。
「誰かっ…誰か助けてぇ−−っ!!」
田中に背を向けた女は叫びながら、玄関に向かい逃げ出そうとする。
しかし足がもたついたのか、女はよろめいてへと壁寄りかかった。
「てめぇ…命が惜しくねぇのかっ!!」
壁に寄りかかる女を正面にして、喉元に包丁を突き立てたその時…田中はある事に気づいた。
「何だお前…もしかして妊娠してるのか?」
怯えながら頷く女のお腹は、はち切れんばかりに大きく膨らんでいる。
「お願いです…何でも上げますから…だから命だけは……」
逃げ出そうとして捕まると、今度は泣きながら命乞いをする女。
「何だと…このアマがぁっ、ふざけやがって!!」
逃げ出した事に対する怒り、捕まると今度は命乞いする身勝手さ…そして妊娠している女の幸福に、これまで蓄積されていた田中の世の中に対する嫉妬や憎悪が、一気に噴き上げる!!
「バチン…!!」
田中は女の頬を平手で一発叩くと、よろけて床に座り込んだ女の襟首を掴み、無理矢理引きずって居間へと向かった。
そして女をカーペットの上へ仰向けに押し倒すと、手を伸ばしてワンピースの裾を強引に間繰り上げる。
「なっ、何をするのっ!!
嫌あぁっ、やめっ…止めてえぇぇ−−!!」
これが妊婦のものなのかと思うほど、強烈な力で女は両足でガツガツと田中を力一杯蹴り飛ばしながら、必死に抵抗してこの場から逃れようとする。
「このアマァ…てめぇ名前何て言うんだ、ガキの顔を拝みてぇんなら大人しろっ!!」
蹴りを食らう痛みに耐えながら田中は、左腕を伸ばすと女の頬を片手でがっちり掴み、鈍い光を放つ包丁の先を女の眉間へと突き当てる。
すると蹴る事を止めて、潤んだ瞳から涙をボロボロ流しながら
コクッ、コクッ…
と二度小さく頷いて
「み……美代子…です…」
と名乗って大人くなった美代子の下腹部に、田中は魔の手を伸ばす…。