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最中の月はいつ出やる
【歴史物 官能小説】

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第二章-2

 次の夜。月汐抱えの振袖新造、初音が老人の客の手を引いて久喜万字屋の大階段を上がっていた。老人は札差(ふださし:金貸し)のご隠居、徳兵衛という。齢五十にしてまだ悪所通いという元気さであった。
 ご隠居は月汐花魁目当てで登楼したのであるが、彼女は昨日の菓子作りで疲れたのと、上手く巻煎餅が出来なかった憂さのため、自分は傍輩の部屋に身を潜め、名代(みょうだい)として、初音に徳兵衛の相手をさせることにした。
 名代といえども揚げ代は花魁のものと同じ。不平を言う客もいるが、ご隠居は活きのいい娘を抱けると聞いて、かえって喜んでいた。振袖新造が名代として就いても話し相手となるだけで肌に触れさせもしないのが普通だったが、月汐は初音に場数を踏ませるために、時々、身体を開くよう命じることがあった。

 月汐の閨(ねや)へと初音と客が入る。振袖新造は徳兵衛の羽織を脱がせ、帯もほどいて綺麗に畳むと、二つ重ねの蒲団の脇に置いた。そして、おもむろに自分の衣装の前を崩して客にしなだれかかる。

「そうか、初音というのか。いい名じゃのう。年は? ……そうか、十六か。若いのう。……肌も張りがある。髪にも艶がある。そして、乳は……、うむ、まだ仄かに硬さが残っておる。いいのう。いいのう」

盛んに褒められて初音は笑みがこぼれ、白い歯が少し覗く。遊女は皆、客とかりそめの夫婦となるという意味で鉄漿(おはぐろ)にしていたが、振袖新造はその限りではなかった。

 蒲団に仰臥して胸を揉まれる初音。襖越しに番頭新造の九重が、今宵の首尾に聞き耳を立てている。万が一、客を怒らせたり、不快な思いをさせたりすると、あとで叱責が待っているので、初音は徳兵衛の求めるままに股を開く。

「おお。開(ぼぼ)の毛はまだ剃っておらんのか。ほとんどかわらけ(無毛)にしている花魁とは違って生々しいことよ」

「それでも、チクチクせんように毛の先は線香で焼いてありんす」

「それは感心なことじゃなあ」

徳兵衛は相好を崩して初音の女陰に唇を寄せる。そして、まだあまり男を受け入れていない秘裂を、そろりと舐め上げる。ピクリと過敏に反応を示す娘が愛しくて、ご隠居はなおも舌を秘陰に遊ばせる。
 なみの男なら、魔羅がもう天を衝いている頃合いだが、徳兵衛の一物はだらりと垂れたまま。

「ぬしさま。しごいてあげんしょうか?」

初音の申し出に老人は首を傾げた。

「ふむ。……わしの死にかけたものに生気を宿らせることが、おまえに出来るかな?」

「出来んすよう」

初音はむきになって腕まくりをした。
 だが、彼女がいくら肉竿をさすっても、いくら亀頭をこねくり回しても、徳兵衛の男根に芯を通すことはおぼつかなく、まだ三分勃ちくらいでしかなかった。

「こうなれば、口でやってあげいす」

初音は徳兵衛の股間に顔を埋め、湿った音をさせ始めた。稚拙な口戯ではあったが、ご隠居にはかえってそれが新鮮だったか、やがて、使い古した男根が張りを帯び始め、初音が懸命に鈴口を吸いたてると、なんとか八分勃ちまでにはこぎつけた。

「ほれ、振新。萎れぬうちに開(ぼぼ)で咥えよ」

徳兵衛の声に、初音は慌てて彼を押し倒し、覆いかぶさった。辛うじて勃っている肉竿をひっつかむと、秘裂を押し当て、腰を沈める。だが、女陰の湿りが十分でなかったか、素直に入らない。急いで指に唾を付け、秘部を濡らしてからまた腰を沈める。

「おっ。じさま、じさま。入ったぞ」

郭詞(くるわことば)も忘れて地の言い回し。

「おお、入った入った。さあ、尻を振れ。尻を」

客の命(めい)で調子よく尻を上げ下げする初音。徳兵衛は「おお……、おお……」と喜びの声を漏らしながら振袖新造の精励恪勤に目を細める。
 初音は腰を据え直すと、今度はせわしなく尻を振った。だが、その動きが始まってややもせぬうちに、徳兵衛は「ふむうっ……」と唸って彼女の中に精を放ってしまった。
 初音がご隠居の身体から降り、目的を果たして萎れた男根を枕紙で拭いてやると、徳兵衛は蒲団のわきに畳まれた羽織の袖から巾着を抜き出し、一朱銀をひと粒手に取った。口の前に人差し指を立てて初音にそれを手渡す。

「仕舞っておきな。花魁には内緒でな」

小声で言う徳兵衛に初音はやんわりと抱きつき、白髪頭に接吻した。現代ならおよそ一万円の臨時収入であった。

 夜が白々と明けそめて老人が帰るのを大門まで見送った初音が戻ってくると、番頭新造の九重が彼女に説教を始めた。里言葉を忘れて地の言い回しをしたことや、客に交接を長く楽しんでもらわなくてはならぬのに途中で早腰にして吐精させてしまったことを叱った。しかし、銀の小粒を初音が密かにもらったことは気づいていなかったようだ。

(じさまの客は、しつっこく長引かないし、気前がいいし、あたいは好きだなあ)

初音がにんまりしながら廊下を歩いていると、ゆきみ・はなみ二人の禿たちとすれ違い、

「おい、初音どん。なにをそんなに浮かれてやがる」

怪訝な顔を二つそろって突き出されたが、それらの頬を軽く撫で上げ、初音はケラケラ笑って行き過ぎた。


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