第一章-4
「ようし。それじゃあ、おれの肉の筆で、おまえの子宮(こつぼ)を思う存分……」
貞元はいきり立つ魔羅を秘裂にあてがうと、ズブズブズブと沈み込ませる。そして、腰を振り立て、春画と同じ場面を展開させようとした。
「ああ〜〜〜。そうされては、……わっちは、よくなってしまいいす」
月汐は貞元の背中に腕を回し、切ない声を上げてみせる。悶える女を巧みに演じる。演じていることを悟られぬよう、嬌声だけではなく、秘壺を微妙にひくつかせる。
「ああっ…………。うっ…………。うあっ…………」
声も「上げる」というより、自然に「漏れる」感じにする。
しかし、今宵の貞元、かなり体調がよかったのか、そして、よほど溜まっていたのか、いつも以上の腎張り(性欲が強いこと)ぶり。月汐の極上の秘肉に魔羅を強く弱く玄妙に弄ばれて一度精を漏らしたものの、肉茎の張りはそのままで、抜かずにズブリズブリと交接を続ける。陰戸からは精液が溢れ、高価な夜具に染みを付けてしまう。それを気にしながらも、
「ううっ…………。あぁっ…………。あああうっ…………」
月汐は感じている体(てい)を声で示し、男の背中に爪を立ててみせる。そして、膣に微妙に力を込めて亀頭冠を秘肉でこそげるようにする。この技をくらって平気でおれる男(おのこ)はいない。貞元も(おお、なんたる締め付け。これは……、もう……、たまらぬ)と吐精を覚悟し、此処を先途と腰を振り、二度目の精をどっと放って快感に打ち震えた。月汐も、わざと肩を震わせ、思わず達してしまったという顔をする。
そして、貞元の満足げな、そして(花魁を逝かせてやったぞ)という得意げな視線を浴びながら、月汐は男の股間を枕紙で綺麗にしてやった。
やがて、貞元が朝まで一寝入りと彼女に背を向けて横臥すると、月汐は大股開きになって秘陰の詰め紙を抜き取ろうと指を差し込んだ。丸めた和紙を取り出すと、それは精液を吸って幾分膨れていた。
(あーあ。しこたま出しちまって……)
役目を果たしたであろう避妊用の詰め紙を枕紙で包むと、月汐は貞元の様子を窺った。そして、すぐ寝入ったことを確認すると、襖を開けて隣室へ移った。声を潜めて禿を呼ぶ。
「ゆきみか、はなみ。……どっちか起きているかえ?」
「……ご用でござりいすか?」
同じく低い声で答えたのは、ゆきみのほうだった。
「おい、金盥(かなだらい)に水を入れてきな」
「あい」
「途中で、ぶっこぼすなよ」
「あいいー」と言ってゆきみが盥に水を張って(必要以上になみなみと汲んできたので途中でこぼれ、廊下が少し濡れていた)きたのをもらい受け、畳にそーっと置いて上にまたがる。そして静かに陰部を清めた。
それからしばらくして、月汐はわざと履き古した草履を選び(新しいと廊下でキュッキュと鳴ることがあるので)、足音を忍ばせて階段へと向かった。襖を開け放っている遣手の部屋を窺うと、女郎を取り締まる年増女は居眠りの最中だったので、これ幸いと前を通り抜け階段を降りる。丑の刻で階下にも人影がなかったので素早く廊下奥の行灯部屋へと歩を運ぶ。
部屋の中は真っ暗であった。が、身を屈めて手探りすると、薄い蒲団の感触があり、次いで、骨張った身体に手が触れた。
「姐さん。……紫月姐さん」
月汐の問いかけで、煎餅布団の人物に少し動いた気配があった。
「姐さん、身体の加減はどう?」
顔を近づけると饐(す)えたような異臭がした。
「……月汐?」
弱々しいかすれた声がした。
「そうよ」
「ここに来てはいけないと言っただろう。遣手のお滝に見つかったら折檻をくらうよ。それに、わっちの瘡毒(梅毒)がうつっちまうよ」
「大丈夫だよ。そんなことより喉の腫れ物はどう?」
「……相変わらずだよ。というか、今じゃ身体のあちこちが腫れ物だらけだ。……そのうちに、生きたまま浄閑寺送りさ」
「そんなこと、わっちがさせやしない。花魁になるまで、さんざん姉女郎の姐さんに世話になったんだから……」
「たとえおまえが見世一番の花魁になったとしても、瘡毒を背負い込んじまった女郎の始末にまでは口出し出来ないよ」
「そうだけど……」
「でもまあ、こうして様子を見に来てくれるだけでも嬉しいよ」
「大福餅持ってきたんだけど、食べて」
餅と聞いて紫月が跳ね起きた。暗がりの中、月汐の手から餅を奪うように取ると、ガツガツと食べ始めた。重い病になった女郎は楼主に見限られて薬を投与されることは滅多になく、食事もろくに与えられなかった。そのため、病人の中には押し込められた行灯部屋から抜け出して残飯あさりをする者もいるほどだった。
大福餅を頬張る紫月が噎(む)せる。
「姐さん、そんなに急いで食べなくても……」
紫月の痩せた背中を月汐がさすってやる。
「……いや、急いでないよ。……喉の腫れ物のせいで餅がつかえて……」
「巻煎餅とかのほうがよかったかねえ」
「……舌にも腫れ物があるし、なんだか歯茎が弱っちまったようで、硬いものはだめなんだよ」
「困りんしたねえ……」
紫月の背中をさすり続けながら、月汐は今度来る時は山屋の柔らかい豆腐でも持ってこようかと考えていた。
(続く)