第二話 船団への洗礼-5
「ぶはぁ!」
浮き上がると、近くに浮いている自分の背嚢を手にした。あらかじめ投げ込んだ背嚢めがけて飛び込んだので、すぐに背嚢にたどり着くことができた。括り付けてある鉄兜を外し、背嚢を尻に敷いて腰に巻き付けた。爆雷の爆発や船の爆発による水圧から肛門を守るためだ。もっとも気休め程度でしかないのだろうが。
「みんな生きてるか!」
返事は帰ってこない。周りはうめき声や救助を求める声であふれかえっていた。
いつの間にか、はあぶる丸の姿はなくなっていた。海は重油で黒く染まり、特融の嫌な臭いが漂っている。
上着をズボンの中に入れて極力体温を下げないように努めた。いくら南方の海といっても、体温より水温は低い。
何分、何時間ぐらいだろうか、一分がすごく長く感じた。体力を極力使わないようあまり動かなかったからなのかもしれない。もう、あたりにうめき声は聞こえなくなっていた。
かすかに声が聞こえた。よく耳をそばだてると……
「生きてる奴はいないかー?おぅーい!」
確かに声が聞こえた!遠くに内火艇が見え隠れしている。
「ここだ!生きてるぞー!」
右手に握っていた鉄兜をできる限り高く上げた。すると気づいてくれたのかゆっくり小発が近づいてきた。
「よく頑張った。もう安心だ」
内火艇は、浮いている杉野のすぐ真横に付けると、乗っている海軍の兵士が、半身を乗り出して手を差し伸べてくれた。差し出された手をグッと握る。温かかった。