第二話 船団への洗礼-3
「後方!七時の方向に雷跡二本!回避せよ!」
見張り員が叫んだ言葉が、近くにあった伝声管から伝わってきた。
輸送船の船橋では船長以下、乗組員が必死の回避行動を行っている。
「面舵一杯!急げ!」
「おーもかーじ!いっぱい!いそーげー!」
操舵手が船長の指示を復唱し、指示通りに舵を切る。
魚雷は船体の左側スレスレを通過する。
「魚雷回避!」
見張り員からの報告が一瞬の安堵を船橋内にもたらす。だが、まだ敵は近くにいる。すぐに魚雷はやってくるだろう。
「戻せ!」
「もどーせー!」
舵を握る操舵手の手はガクガクと震えている。
見張り員が砲座に取り付いて反撃を始める。付いているのは陸軍の旧式火砲だった。陸軍船舶兵の彼らは、無我夢中で非力な旧式火砲を海面に向かって乱射し、敵潜水艦に魚雷を発射させまいとした。
「七時方向より魚雷!四本!放射状に接近中!」
砲を撃っていた一人が魚雷を発見し、裏返った声で伝声管に叫ぶ。
「面舵!魚雷の間、すり抜けろ!」
「おーもかーじ!」
伝わってきた声を頼りに迫りくる脅威から逃れようともがく。しかし、魚雷は、はあぶる丸の船尾を正確にとらえていた。