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新【翼の記憶】
【ファンタジー 恋愛小説】

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異空間の旅・吸血鬼の国-3

ふわりと城の屋根から舞うように降りてきたのは紛れもなくこの国を統べるヴァンパイアの王の彼だった。

「王っ!!探しましたよ!ちゃんと行先は大臣に伝えてください!とあれほど・・・」

門番の怒りにも動じない彼はツーンとそっぽを向いている。きっと彼はそのようなお小言を今まで何度も言われてきたのだろう。聞き飽きたとばかりのその表情はまだ少年のあどけさをどこかに残したような・・・二十歳前後の容姿を保っていた。

ガミガミとうるさい門番のお小言が終わると、やっと目を開いて視線をうつした彼は口を開いた。

「で、何の用だ」

鮮やかな血の色を宿したような瞳がスッと細められ門番の彼を威圧する。即位して二百年足らずのこの若き王は、長寿で知られるヴァンパイアの中でも若い分類に含まれる。そのため幼い時から彼を知る者は、息子のように・・・中には孫のように見ている者たちがいる。

なので自然とお小言や説教をよくされることがあり、昔からのその微笑ましい関係は彼が王となってから今まで、二百年以上何も変わっていない。

しかしそれは、彼がなめられているわけではなく・・・愛されているからこそのものだった。口ではとやかく言いながらも皆、彼を尊敬し敬っている。だからこそ、彼の命令は絶対であり、反論するものたちは誰もいない。

「・・・悠久の王からの書簡でございます」

これ以上言っても仕方がないというような諦めモードの門番は懐から預かった手紙を差し出した。

「・・・キュリオからのものか」

「はい。それと・・・門番のひとりが悪ふざけをしまして、負傷いたしました」

受け取った手元の手紙からジロリと視線だけを向けた王は、いつのまにか背後に待機していた別のヴァンパイアへ合図を送る。

「手当してやれ。どうせやつの灯にやられたんだろう?」

「ええ、その通りでございます」

王の命を受けた後ろのヴァンパイアは静かに一礼すると、負傷したもうひとりの門番を探すため音もなく姿を消した。

紅の瞳をもつ彼がカサリと手紙の封を切ると、悠久の王直筆の文章を順を追って読んでいく。

「出生不明の赤ん坊・・・?」

しばらく動きを止めていた彼はキュリオの手紙を懐にしまうと、長い艶やかな髪をなびかせ門番へと背を向けた。

「・・・この国で最近誕生した命はあったか?」

「いえ・・・ここ数年は」

「該当者はなしだな」

「該当者なし・・・ですか」

「ああ、悠久で出生不明の赤ん坊が発見されたらしい。返事は俺が出す。お前は持ち場に戻れ」

「・・・かしこまりました」

使者が運んできた内容がどれほどのものか心配していたが、門番の彼の取り越し苦労だったようだ。すると、

「・・・面白そうだな」

ボソリと呟かれた王の言葉は小さく、門番の彼には聞こえなかった。そうしているうちに紅の瞳の青年の背中には大きい漆黒の翼が堂々たるその姿をあらし、彼は大空へと羽ばたいてしまった。王である彼の翼は一族のそれとは違い、キュリオや他の王と同じく鳥のような翼だ。

夜空を舞う王の姿をぼんやりと眺めていた男は、はっとしてまた大声で叫ぶ。

「どちらに行かれるかちゃんとおっしゃってから出かけてくださいよぉぉおおっ!!」

城の中の大部分の者がその声を聞き、クスクスと笑っている。
気まぐれで、どこか少年っぽさを残した王と家臣らのこのやりとりは毎日のように繰り広げられていたため、これが日常茶飯事なのだ。

ヴァンパイアの王が向かった先はどこかわからない。

・・・冷たい風を肌に受けながら、彼は自国の門をくぐり異空間へと飛び立っていた。そして紅の瞳が真っ直ぐ見据えた先には・・・銀色に輝く巨大な水晶でつくられた門がそびえ立っている。

(悠久の国か・・・久しぶりだな)

不敵な笑みを浮かべたヴァンパイアの王はキュリオの治める地へと侵入しはじめていた――――


――――悠久の城の中庭、微笑みあう美しい銀髪の王と幼子の楽しそうな声が響いている。赤子の小さな体を片腕で抱きしめ、満開の花々の間をゆっくり歩き、時折しゃがんで花を指差しながら赤ん坊へと何か話しかけている。

まだ言葉がわからないはずの幼子も、キュリオの笑みにつられるように先程から笑い声をあげていた。

「この花はお前によく似ているね。小さくて本当に愛らしい・・・」

あわいピンク色の花をひとつ手に取ると、キュリオは柔らかな彼女の髪にそれをさしてやる。

「うん、とても素敵だよ。そうだ・・・この花に似せた髪飾りをつくってもらおうか?それともドレスがいいかな?」

まだ他国からの返事が返ってきていないにも関わらず、キュリオが彼女を手放す気がないのは誰からみても一目瞭然だった。会話の内容からしても自分の子のように可愛がっている。



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