第一節『start』-1
さっきまで通勤ラッシュの電車の中にいた彼女はトボトボと学校への道を歩いている。
彼女の名前は早坂優綺(はやさかゆうき)。この某有名進学校に通う高校二年生だ。
「オハヨー!優綺!」
後ろから声を掛けてきたのは同じ一年A組の友原恵璃(ともはらえり)。
「オッス!恵璃!」
優綺も挨拶を交わす。優綺と恵璃は小学校からの親友で家も近所で親同士も仲良しなのだ。
「優綺〜、その男っぽい口調止めた方がええで?ただでさえ恋愛経験少ないのにより一層少ななるで?」
「ええやん!こっちの方が喋りやすいねんから。」
優綺はそれなりに美人だった。まっすぐで肩まである髪、赤みがかかった茶髪、スタイルも抜群で成績も上位に食い込む程の優秀。当然、男子からのウケも良いのだがことごとく無視を貫く性格。そのせいで優綺は全くと言って良いほど恋愛経験がないのだ。
それに比べて恵璃は恋愛経験が豊富だ。恵璃も優綺に負けない程の美人で成績は中の中ぐらいだがスポーツ万能でボーイッシュな美人だった。当然、髪はショートで黒髪、性格もおっとりと言うかマイペースなタイプで男子、女子どちらにも好かれるのだ。
今は5月、ゴールデンウイーク前と言うことでクラスでの話題は休みの過ごし方で賑わっていた。当然、優綺と恵璃もこの話題で盛り上がっていた。
「優綺。どうするん?この休みの間。私は部活で休み無いから一緒に遊ばれへんけど…」
「毎度の事やん!しかも恵璃は今回、春季大会があんねやろ?そっちに集中しぃや!」
恵璃はバスケ部に入っている。一年生からずっとレギュラーを張っている程の実力者なのだ。中学の時に大阪府選抜に選出されたことがある。
「そやね。ありがと! じゃあ優綺はいつも通り堺の亮太クンのトコに行くん?」
一瞬、優綺の顔が赤くなった。
「そ、そんなことないわぁぁぁ!!」
「ウソばっかり♪どっちにしろ亮太クンは優綺のコト待ってるって!」
今、話題に出てる『亮太』とは水神亮太(みかみりょうた)のこと。亮太は優綺の幼なじみで優綺が中学一年生の時に堺市に引っ越してしまったのだ。
亮太は府内の某甲子園常連高で野球部に所属している。こちらも恵璃と同様、一年生からレギュラーを張っており夏の甲子園でセカンドで出場していた。
野球漬けの割りには頭が良く、授業中はいつも居眠りをしているがトップ5にいる天才肌なのだ。
顔も良く、髪は坊主頭だが背は高くスラリとしている。性格は少し腹黒いが紳士的で理想の男性と言える。
「そ、そう…かなぁ…。」
「絶対そうやって!この前の夏だって甲子園まで見に行って優勝した時なんか私のこと忘れて2人でアッツアツやったやん♪」
「な、なっななな!!! ちょっ、恵璃!!過去は忘れてやぁぁ!!」
「まっ!ムリやな(笑) 行ってあげなよ。絶対に亮太クンは優綺のこと思ってるし1人の女の子として見てるって!」
優綺がこの学校の男子と付き合わないのには理由があった。すでに気付いてると思うが優綺は亮太のことを好いていた。 小学校の時から本当の姉弟の様にいてその時から優綺は亮太のことを好いていた。
亮太が引っ越しする時に告白しようとしたこともあった。 しかし言えなかった。 怖かったのだ。今の関係を崩したくなかった。それを今もずっと引きずっているのだ。
『もし亮太に彼女がいたら…』
『もし亮太が私のことを嫌っていたら…』
『…このままでいい。もしフラれて関係が崩れるより、この姉弟の関係のままがいい。』
そう思いつつ、優綺はフラフラと自宅に向かっていた。
「ただいま〜。…ハァ〜。」
「おかえり。どうしたん?大きなため息。」
居間の戸を開けて自分の部屋に行こうとしたら姉の皐月(さつき)が声を掛けてきた。
「別に…ちょっと考え事を。」
『フ〜ン。何かあったな、あの子。』 瞬時に皐月は悟った。皐月は優綺より3つ年上の二十歳。 現在は大学の二回生だ。 早坂家の家族構成は母親と皐月、優綺の三人暮らしだ。父親は海外でずっと仕事をしているが毎年元日に3日間だけ帰ってくる。