夜のサービス-3
はっきり言って瀬奈がどんな人生を歩んできて、どんな苦しみを抱えているかなど知る由もない海斗。さっき自殺を決めあんな高い崖の上から飛び込む程の苦しみをズケズケと聞ける程、海斗だって無神経ではない。海斗は柄にもなく言葉を選ぶ。
「ま、別に俺の生活にお前が入ってきても何も問題はない。それに確かに死のうとしたお前を俺が助けてしまったんだ。だから本来、これからの人生はお前にとって必要ない人生なんだよな?余計な人生を与えてしまった俺には確かに責任があるしな。責任とって俺はお前のこれからの人生をあずかってやるよ。そんでいつしか前向きに生きたいと思えるようになったらあずかったお前の人生はいつでも返してやる。だから暫くはとにかく生きてみろ。それでも死にたい時はいつでも俺が崖から突き落としてやるからな!」
「ありがと…。」
不器用ながらも海斗の言葉一つ一つに大きな温もりを感じた。
「いつか…いつか必ず私の全てを話します。海斗は何もしなくても、接してくれているだけで私の傷を癒やしてくれそう…。」
「だろ?俺は海のような男だからな!お前の傷なんてすぐ癒してやるわい。」
海斗はそう言って引き出しから何かを持ってきた。
「これはな、皮膚になじませて傷とかをなおしてくれる魔法のジェルだ。アロエには元来そういう効力があるからな。このアロエジェルがあればお前の傷なんてすぐ治るさ。」
そう言って瀬奈の手首にあるリストカット跡に一生懸命塗り込む海斗。
「…何してるの??」
「この傷を癒してやってるんだろ?」
「…。ふざけてる??」
「はっ? 何で?」
「だって私の傷を癒すって…普通傷ついた心をなおしてやるとか、そういう意味なんじゃないの??えっ?マジで手首の傷を治すって意味??」
「は〜!?当たり前だろ!?心の傷なんか何も知らない俺に治せる訳ないだろ?んなの自分で治せっつーの!」
「…」
あっけにとられた瀬奈。しかし真剣にリストカット跡にそのジェルを塗り込んでいる海斗に、それを見ているだけで心が癒される気がした。
「ゼッテー消してやっかんな、この傷。」
的外れな傷を一生懸命癒そうとしている海斗にいつしか瀬奈の顔は緩んでいく。
(馬鹿な人…。でもこの人なら…、この人と一緒なら私は…)
瀬奈にとって海斗は絶望を希望に変えてくれる男なのかも知れない…、そう思えた。自分の苦悩の象徴であるリストカット跡を海斗に撫でられ、瀬奈は心が段々温まってくるのであった。