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逃亡
【その他 官能小説】

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逃亡-40

終章

 武藤浅一は、現金10億円を積んだ白いセダンを運転していた。
「臨時ニュースをお伝えしております。次期首相候補と言われる大物政治家、森橋甚三郎法務大臣が、受託収賄容疑で逮捕されました。ライバルで、さきに右翼テロ集団PFFTに暗殺された元村誠八代議士も関わった汚職事件と見られています。また、東京地検特捜部は、PFFTのリーダー緋村一輝の釈放についても、森橋法務大臣が何らかの関与をしたものとみて、あわせて取調べを進める模様です。」
 カーラジオの報道に答えるように、後部座席から声がした。
「PFFTをハメようなんていう気を起こすからだ。なあ、浅一。」
「これも、あなたが仕組んだんですか。」
 後部座席に寝そべっていた男が起きあがった。
 他の誰にも似ていない狂気と知性がないまぜになった、物騒で、端正な顔立ち。まぎれもない緋村一輝だった。
「ああ、あの野上とか言う刑事に、俺がいろいろと集めた資料を送ったんだよ。敵ながらたいした男だね。期待どおりに使ってくれた。」
「しかし、こういう成り行きを予想していたのなら、東條たちを救ってやることもできたんじゃありませんか。」
「あいつは、あいつの計画どおりやったんだよ。その責任は自分でとらなきゃあな。」
「あなたは東條にも気づかれないよう、婦人警官を襲った交番で、待機していた替え玉の男とすり替わった。フルフェイスのヘルメットなら、わかりませんからね。本当に油断のならない人だ。」
「東條はいいんだよ。今回、俺を釈放させたのだって、自分が組織内でイニシアチブを取るためだったんだから。森橋ンとこの連中が俺を殺すのだって、ひょっとしたら承知していたかもしれないぜ。それに、あいつの班の連中はガサツで好きになれなかったからね。浅一、お前なら何としても助けてやるよ。」
 緋村の言葉の真意がつかめず、浅一は無言で答えた。
「それより、惜しいのは早瀬瑞紀だ。せっかく、あいつだけは売らずに、俺のペットにして側に置こうと思っていたのに。」
 緋村が心底残念そうに言うのを聞いて、浅一はため息混じりに言った。
「全く、女に執着するところが、あなたの隙になるんですよ。あなたの逮捕に執念を燃やしている野上刑事が追って来た時、それが命取りになるかもしれませんよ。」
「同じ追われるなら、瑞紀がいいなぁ。」
 緋村は愉快そうに笑いながらそう言った。
「ところで、これからどこへ行きましょうか?」
「そうだな。他の同志と合流したら、しばらく山奥で次の作戦を練ろう。できれば、ペットにできる可愛い子ちゃんがたくさんいれば言うことないがね。」
「本当に、懲りない人だ…」
 そう言いながら、ルームミラーに映った緋村の顔が、浅一にはとても魅力的に見えた。

終わり


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