逃亡-10
第2章
1
白いセダンは関越自動車道を走っていた。
緋村はふいに後部座席から身を乗り出すと、車を運転している瑞紀の左右の胸を同時につかんだ。
精緻なレース模様のブラカップに包まれた膨らみが押しつぶされ、男の指が柔らかい肉の中に深々と沈んでいく。
「キャッ!」
瑞紀は思わず悲鳴をあげ、身体を左右にゆすった。
キキーッ! とタイヤを軋ませて車体が左右に揺れる。
「おいおい、しっかり運転してくれなきゃ危ないじゃないか。」
そう言いながらも、緋村は両手で包むようにして、柔らかい膨らみの感触を楽しんでいる。ハンドルを握っているため、瑞紀の胸は、何をされても無防備にならざるを得ない。
「ちょ、ちょっと、やめてくださいっ!」
緋村に言われるまでもなく、交通事故を起こすわけにはいかない。瑞紀は必死でハンドルを握りながら、なんとか胸を揉むのをやめさせようと上半身をよじった。
「駄目だ。お巡りさんなんだから、模範運転を見せてもらおう。身体を触られたぐらいできちんと運転できないようでは、立派な警察官は務まらないぞ。」
ルームミラーの中の困惑しきった瑞紀の顔を覗き込みながら、緋村は面白がるような口調で言う。そして、同乗させたカメラマンがあっけにとられて見ているのに対して、妙に優しい口調で言った。
「おい、ATV君、何のために君を乗せたと思っているんだ。早瀬警部補の模範運転をきちんと放送してくれなくちゃ駄目じゃあないか。」
「えっ…、は、はあ…」
若いカメラマンはとまどいながらも、緋村の言うままにテレビカメラをセットした。
チャンネルをATVに合わせてあるカーテレビに、下着姿で運転する瑞紀が映し出される。狭い車の助手席から、見上げるようなアングルで撮影された映像だ。
「なんだ、これは?」
緋村が眉をしかめた。瑞紀の顔にボカシがかかっている。
「失礼な放送局だなあ、瑞紀。ATVはお前の顔をオ××コと同じように思っているみたいだぞ。」
からかうような口調で緋村が言ったが、瑞紀は何も答えない。その顔は強張り、屈辱で耳まで真っ赤になっている。もちろん、放送局は人権上の配慮でやっているのだ。
緋村は、カメラマンに瑞紀から取り上げた携帯電話を渡した。
「おい、番組の責任者に連絡しろ。せっかくの独占中継なんだ、きちんと放送してもらわなきゃあ困るからな。」
カメラマンがプッシュボタンを押すと、すぐに電話は番組のプロデューサーにつながった。
緋村は携帯電話を瑞紀に渡し、彼女の耳元でささやいた。
「ボカシをとって、きちんと放送するように言うんだ。」
緋村は、瑞紀自身の口から、彼女の恥ずかしい映像を中継するよう伝えさせるつもりなのだ。もちろん、彼の命令に逆らうわけにはいかない。
「もしもし、緋村被告人に同行している警視庁の早瀬です。今、車の中ではテレビがかかっていますが、映像が修正されていますね。」
瑞紀はかすれる声でプロデューサーに話しかけた。
「はい、私どもとしては、警部補のプライバシーを守る必要があると考えていますから、安心してください。」
誠実そうなプロデューサーの声が答える。
瑞紀は声を詰まらせた。せっかく、放送局が瑞紀の人権やプライバシーに対して配慮してくれているのに、彼女自身の口から、それを無にするようなことを言わなければならないのだ。
「ありがとうございます。でも、それを取るようにというのが犯人の要求で…、あっ、痛いっ!」
緋村の手が胸の膨らみを鷲掴みにし、思いっきり握りつぶした。そして、瑞紀の耳元で凄みを効かせた声が囁く。
「そんな言い方じゃあ駄目だ。ボカシを取って、顔をちゃんと映すよう、お前自身がお願いするんだ。」
瑞紀は、警察官としての任務を遂行するという責任感にしがみついて、やっとのことで恥辱に耐えている。緋村は徐々にそれをはがしていこうとしているのだ。
「ボカシを取って、私の顔が見えるようにしてください。」
「本当にいいんですか? 警部補は下着姿で、身体にいたずらされているんじゃないんですか?」
もちろんいいわけがない。しかし、そう答えることはできないのだ。瑞紀は絶望的なため息を漏らした後、かすれた声で答えた。
「ええ…、構いません…」
やがて、画面にかかっていたボカシが消え、瑞紀の顔がはっきりと映し出された。後部座席から乳房にのびた手が、豊かな膨らみを揉みしだいている。