すれ違ってばかりの俺達-6
驚いた沙織は、目を見開いて俺の顔を見上げた。
見下ろす形になる俺の視界には、沙織のマシュマロみたいな胸も映り、思わず生唾を飲み込みそうになるけど、今はそんなスケベ心よりもいとおしさが勝った俺は、彼女に向かって小さく頷いた。
「沙織、好きだ」
自然に想いが口から溢れていた。
「えっ?」
突然の驚いた沙織の顔に赤みがさしていく。繋いだ手から熱が伝わった俺もまた、顔が熱くなる。
付き合って長くなれば、自分の気持ちなんて言わなくても伝わるって思ってしまって、こんな風に伝えるなんてことをサボりがちになる。
でも、今この時こそ言うべきだって思った俺は、
「好きだっつーか、その……」
鼻の頭を人指し指で軽く掻いて、青空を仰ぎながら、
「……あ、愛してる」
と、なんとか声を振り絞った。
あー、もう汗びっしょりじゃねえか。
繋いだ手にまで汗をかいて、恥ずかしいことこの上ない。
でも、心は言い切ったと言う達成感でいっぱいだった。
こんな賑やかな場所で突然そんなことを言われた沙織は、どんな顔をしているだろうか。
沙織は案外照れ屋だから、キスをした後なんかは妙に挙動不審になって、甘い雰囲気から抜け出すように、話題を反らせたりする。
まあ、俺はそんな彼女の照れて真っ赤になった顔が、可愛くて大好きなんだけど。
きっと今もそんな顔してるんだろうな、と、俺は沙織の顔を覗き込もうとした、その時だった。
「あたしも……」
「ん?」
消え入りそうな声に、聞き返そうと顔を近づけると、彼女は繋いでいた手を振りほどき、ガバッと俺の腕に沙織のそれを絡ませてきた。
「あたしも、愛してる!」
照れ隠しで、表情を見えないように顔を俯かせたまま、沙織は腕を組んできた。
照れ屋の沙織らしい。
だけど、幸せに満ち溢れるはずの展開のはずが、沙織のこの行動により俺達に亀裂が入ることになるとは夢にも思わなかった。