すれ違ってばかりの俺達-4
話しかけるのにこんなに緊張したのは、いつ以来だったかな。
初めて話しかけた時? 仲良くなりたくて連絡先を聞こうとした時? それとも初めて告白をした時?
いずれにしても相手の気持ちが見えない状態でぶつかるのは、とても勇気がいることだ。
あの頃の俺に比べたら、沙織の気持ちは俺を好きでいてくれるとわかっている分、話しかけやすいはずなのに、あの頃の俺と同じくらい緊張している。
波打ち際で砂山を作る沙織の背後に立った俺は、何度か咳払いをしてから、口を開いた。
「さ、沙織……」
うひゃ、噛んだ。
早速ダサい所を見せてしまって、早くも逃げ出したくなる。
でも、不意にさっきの修の不敵な笑みが脳裏を過り、唇をキュッと結んだ。
もう俺は逃げねえ!
沙織の白く細い背中を見つめながら、拳をグッと握り締めた。
「倫平……」
ゆっくり振り返った彼女は、感極まったように大きな瞳を潤ませるから、胸がキュウッと苦しくなる。
ごめんな、寂しかったよな。
潮風に吹かれ、沙織のポニーテールが揺れる。
そして、沙織がゆっくり立ち上がると共に、一緒に砂山を作っていた本間さんが、
「わたし、桃子たちの所に行ってるね」
と、彼女の肩をポンと叩いて、歩き出した。
本間さんの足跡が、波にかき消されていくのを見ると、ついに二人きりになってしまったんだなと身が引き締まる。
二人きりになって、緊張感がマックスの俺は、沙織になかなか話しかけられずにいた。
沙織も俺の言葉を待っているのか、妙に気まずい沈黙。
あー、こんなんじゃダメだろ俺!
沙織と本間さんが作った砂の山のはじっこを波がさらっていくのを合図に、やっとこさ口を開いた。
「あ、あのさ……」
「うん……」
まだまだぎこちなくて、うまく目を合わせられずにチラチラ彼女の様子を伺うけど、
「みんなの昼飯買いに行かない?」
と、言った瞬間、沙織の顔色が変わったのが視界の端に入ってきた。
「倫平……」
今にも泣きそうな彼女が、とても愛おしくて。
やっぱり俺は、沙織が大好きなんだなって、つくづく思った。
「ね、買いに行こ?」
ようやく真っ正面から沙織の顔を見れた俺は、やっとスタートラインに立てたような気持ちになった。