すれ違ってばかりの俺達-3
「あれ、だって沙織は州作さんと……」
「州作さんは歩仁内くんと沖で泳いでるよ」
「へ?」
「歩仁内が州作さんを連れ出したんだよ。さすがに見かねたんだろ」
そう言って修は、親指で沖を指差した。
とは言っても、これだけの人だ。海で泳いでる野郎を簡単に探せるわけもなく、
「ああ、そう」
と、気のない返事をするだけの俺。
州作さんが沙織と一緒にいない、その事実にホッとしながら。
しかし修と石澤さんは、そんな俺の態度に気をもんだらしい。
「大山くん」
「な、何……?」
突然、石澤さんが少し怖い顔で俺を睨み付けるから、たじろいでしまった。
今でこそ、石澤さんとは友達になれたと自負できるけど、一度この娘を怒らせ、傷つけてしまった前科があるから、石澤さんがこうして睨んでくると、本気で怖くなるのだ。
そんな怖い顔で睨んでいた石澤さんの眉のあたりが、フッと脱力したかと思うと、
「沙織、ホントは大山くんに助けてもらいたかったと思うよ」
と、目線だけを少し離れた沙織に向けた。
石澤さんによれば、沙織は荷物番をしている俺のところに何度も来ようとしてたらしい。
州作さんといるんじゃなくて、俺といたいから。
でも、俺のさっきの態度が彼女に二の足を踏ませていた。
自分から動くことができない沙織は、俺に州作さんを牽制して欲しかったらしい。
けど、当の俺はいじけてふて寝。
結局、俺が引き起こしたことが、悪循環を生み出していたのだ。
「……何があったか、詳しくは知らないけど、このままでいたらダメだよ」
「わかってるよ」
下唇を突き出し、にべもなくそう言った俺に、
「んじゃ、今すぐ沙織と話をしてこい。本間はオレらのとこに来させるから」
と、憮然と腕を組んだ修は、有無を言わせない、そんな強い口調でそう言って、また蹴りを一つ。
「痛って!」
コイツはホント、俺に対して容赦ない。
涙目で修を睨むと、奴はニッと不敵に微笑んだ。
「少しは頼りになるところを見せてこいよ。沙織が一緒にいたいのは誰だと思ってんだよ」
「…………!」
俺には手厳しい修だけど、その裏側にある優しさを持っているのも知っている。
不敵な笑みを眺めているうちに、つられて俺もフッと笑った。
「少しは男を見せてこい」
やっと俺、目ェ覚めたわ。
「サンキュー」
そして、俺は二人にそれだけ言うと、愛する彼女の元へ走り出した。