異空間の旅・精霊の国-3
―――王と呼ばれた青年は巨大な樹木へと背を預けながら光の精霊を見つめている。そしてその美しい瞳は翡翠の色を宿していた。が、しかし・・・彼の表情からは何も伝わって来ず、心を読み取ることは出来そうにない。
光の精霊が彼のもとへ移動すると、彼女に包まれた書簡に気付いた精霊王はわずかに眉を動かした。
『・・・悠久の王からのものか・・・』
『はい・・・先程使者が持って参りました』
片膝を折り曲げ、左腕をのせた精霊王。
受け取った手紙の封印を見ると紛れもなく悠久の王のものであることが確認できる。そして表には精霊王の彼の名が書かれていた。
流れるような動作で封を開けると、見覚えのある悠久の王の美しい字が連なっている。
最後まで目を通した精霊王は考える素振りも見せず手紙を懐にしまった。彼の興味はもうなくなってしまったのか、そのまま静かに目を閉じている。
『・・・・』
悠久の王からの書簡ならば返事をしないという選択肢は彼にはないはずだ。そう思った光の精霊は樹木から降り、木の下で王の返事を待つ事にした――――
―――――一行が出発して間もない頃・・・
キュリオは彼らを見送り、再び幼子の元へと戻ってきた。
不思議な事に赤子はよく眠ると聞いていたのだが、この子はどういうことかあまり眠る気配を見せない。最初はその小さな体が疲れてしまうのではないかと心配したが、いたって彼女は元気そうだ。
そうした今でも彼女はソファの上で大人しく座っており、キュリオの姿が見えると嬉しそうに手を差しのばしてきた。
「ひとりにしてすまなかったね。寂しくなかったかい?」
小さな体を抱き上げると、彼女の柔らかな手の平を頬に感じる。キュリオはその感触を楽しむように己の頬をすり寄せていった。
「好きなだけ触れるといい・・・そして私の顔を覚えておくれ」
幸せそうなキュリオの微笑みをみた家臣や女官たちは、部屋の隅から二人の様子を微笑ましく見守っている。
やがてしばらく戯れていた二人は部屋をでて、中庭と移動しはじめた。
「お前に名前をつけてあげると約束していたね。私がつけてもいいかな?」
キュリオが少女の顔を覗きこむと、彼女は嬉しそうに笑っている。
「きゃぁっ」
(この声は・・・この子が喜んでいるときにあげる声だ・・・)
クスリと笑ったキュリオはあまりの愛しさに幼子の瞼に唇を押し当てた―――