小さな魔導師と剣士-1
バシィィィン!!
と、木刀の鈍い音が響くと鍛錬中の剣士たちが何事かと手を止めて音のしたほうへと目を向ける。
「ぐあぁああっ!!!こんの・・・っ!!やりやがったな!カイッッ!!!貴様ぁぁああっっ!!!」
木刀が直撃した脳天を抑え、顔を真っ赤にして少年を追いかけるブラスト。あまりの出来事にガーラントは目を丸くしている。
「これはまた元気な・・・」
ふぉっふぉっふぉと和やかなガーラントの笑い声が響くと、ブラストに追いかけられていた少年が彼に気付く。
「あれ!じぃさん・・・もしかして!」
と走りながら振り返った少年。
(挨拶をすることはいいことだなっ!!)
と内心感心したブラストはカイを追いかけている足を緩めた。
すると少年は・・・
「料理長のじーさんだろ!?
俺はらへっててさー!なんか作ってきてくれよ!!」
と照れながら頭をかいた。
日を浴びた茶色の髪には汗が光り、屈託のない輝いた笑顔が言葉に悪意がないものだと証明している。
「はーっはっはっはっ!!」
たまらず大声で笑ったガーラントは、"決めた"とばかりに二人を呼び寄せたのだった。
ガーラントの目の前に直立したブラストとカイ。
ブラストにグーで殴られたカイは、納得いかないというように口を尖らせている。
「ほら!謝るんだカイ!!」
頭を掴まれ無理矢理下を向かされる少年。
「わぁーった!わぁーったって!!いてて・・・」
そんな様子をにこやかに見つめているガーラント。
そして穏やかに口を開くと、カイと呼ばれた少年に問う。
「カイと言ったな。お前さん使者をやってみる気はないかね?」
その言葉を聞いたブラストは驚きに目を見開き、挙動が危うくなる。
「お、お言葉ですがガーラント殿・・・、カイは見た通りの悪ガキでして・・・使者など勤まるわけがが、が・・・」
「これブラスト、落ち着きなさい。
キュリオ様の書簡を各国の門番に届けるだけじゃよ。それに魔導師から選出した使者にもこの少年と同じくらいの子がおる」
「書簡を・・・ですか?何か大事でも・・・」
「すべてはキュリオ様の御心のままに、じゃよ」
キュリオが直接皆に言わないかぎりガーラントは他言しない。口が堅いのも、彼がキュリオに信頼されている要因の一つだった。
「それに心配ならおぬしも同行すればよい」
と含みのある笑みを浮かべる大魔導師だった。
―――アレスたち3人の魔導師がガーラントを待ちながら他愛もない話をしていると・・・向こう側から穏やかな声が響いてきた。
「ふぉふぉ、待たせたのぉ」
振り返ったアレスは声のしたほうへと駆け寄った。そしてガーラントの背後にいる大柄の男と・・・自分と同い年位の少年を視界にとらえる。
「やぁアレス!同行する魔導師は君を含め後ろの2人かな?剣士からは私、ブラストとカイが行く。よろしくな!」
「教官!こちらこそよろしくお願いいたします!」
握手を求めてくる日焼けしたブラスト教官の手を握ると手の平はゴツゴツし、鍛えられた者だとわかるくらい骨が太くしっかりしていた。比べて魔導師は頭脳が武器となるため、彼らの手は白魚のように色白でしっとりとしている綺麗な手だった。
すると・・・横から顔を出してきたカイと呼ばれる少年はアレスをじっと見つめて口を開いた。
「へー、お前がじぃさんの言ってた天才魔導師かぁ」
「え・・・?」
驚きに目を見開いたアレス。すると後方からも微笑ましい眼差しが注がれる。
「アレス、君は本当に自慢の後輩だよ」
「い、いえ・・・そんな」
テトラたちからのあたたかい言葉に頬を染めたアレス。さらにガーラントは周りへと視線をうつし言葉を発した。
「この先が楽しみなのはお主らも同じよのぉ、なぁブラスト?」
彼の言葉にブラストは大きく頷き、カイの背中をバシバシ叩いた。
「ですなぁ!しかしまずは・・・カイ!この世での存在意義を見いだせ!お前にしか出来ない事があるはずだからな!!」
叩かれたカイは転びそうになりながら両足で踏ん張っている。
「あのなぁっ!!俺にしか出来ない事っつっても王様を守るのが剣士の役目だろ!?ほかに何があんだよ!!」
ガハハと笑うブラストは腰に手をあて、偉そうに胸を張った。
「そうだっ!キュリオ様を守るのが我々の役目だ!!
だがな、キュリオ様の愛するこの国と民を守るのも同じくらい大切なんだ!」
すると頭をガシガシとかいたカイが舌打ちしながらブラストを見上げる。
「わぁってるよ!そんなの聞き飽きたっつーの!!」
「・・・ほぉ?」
さらに何か言おうとしたブラストを制してガーラントが前にでる。
「お主にはまだちと早いかのぉ?
言ってしまえばキュリオ様はこの国の誰よりも強い。守ってもらわずともよい程にお強いのじゃ」