友達以上、恋人未満。-5
至ってごく普通の一軒家、いや長く住んでるせいか、少々古びてるような建物。
「さぁ、入って。」
「う、うん…。」
彼の家をポカーンと眺める私に声を掛け、先に扉へ向かう彼。私も後をついて行き。
窓から夕陽が差し込み、静寂に包まれた居間。
「あれ、お母さんは?」
「パート、妹達も部活動で居ない。」
辺りを何となく見回し、以前話に在ったお父さんとの音楽部屋らしく所に視線が止まり。
「ごちゃごちゃしてるだろ?部屋はあの日以来のままなんだ。」
「そう……。」
交通事故以来、そのまんまにしてあるお父さんとの想い出の部屋眺める私に背後から説明をする彼。
「ここじゃあれだし、俺の部屋に行こう。」
「……。」
何故だか声が出ない私。彼に言われるがまま彼の自室のある二階へ上がり。
「お邪魔…します。」
「どーぞ。」
恒例のご挨拶を口にし。その部屋は有名ミュージシャンのポスターや、ギターに囲まれ、まさにバンドに青春を費やす男子の部屋という感じだ。
「今、お茶出すね。」
「あっ、いいえ!お構いなく」
「そう…。」
いつの間にか動物園での少々おバカさんな私は消え、控えめな私になっていて。
彼も、動物園に背を向けてから急に声のトーンが重くなってきて、少し恐い。
「……。」
「………。」
お互い何を語るでもなく、重い空気が圧し掛かり。
「いやー、動物園、ホント楽しかったよね、また行こうねっ東堂クン!」
「……。」
そんな空気を打ち消す為、根も葉もない会話を切り出す。
しかし、そんな私に乗る事なく、黙りこくる彼、そして。
「……そうだな、また行こうな、今度は恋人として。」
「うん、……えっ?」
恋人、確かにそう聞こえた。すると彼はグイグイ私の元へ寄り。
「なぁ、俺達ってどういう関係なの?」
「そ、それは……。」
恋人だよ。そう口にしたかった、その為に今回誘った筈なのに、声が、出ない。
「恋人同士、だよな?」
「ん…。」
先に言われてしまった。確かに彼の言う通りだ…。なのに、何だろうこの突っかかりは。
「違うのか?…やっぱり俺達、友達以上恋人未満の関係で。」
「それは違う!…恋人だよっ!そんな訳の解らない関係じゃなく!」
「……。」
ハッキリと言えた、本来目的の言葉を口にする事が出来。
これで一安心、ようやくこれでもどかしい関係に終止符を打てて、全てを終えた。
私は、達成感に満ち溢れ、重りが一気に下されたような安心感を感じる。
しかし、そんな私に彼は言う。
「なら、真雄、って言って見てよ、東堂クン、じゃなく…。」
「え?…」
急の質問に戸惑っていると。
「きゃっ!?」
今度はそのまま私を近くのベットに押し倒し。
「ちょ、東堂…クン?」
真剣な彼の顔が近くにあり、私は当然の如く動揺し、私の腕を掴むその両手を振る払おうとし…。
「何で抵抗するの?」
「だっ、だって…。」
「本気で好きなら、相手を信じて自分の身を託すんじゃない?」
「……。」
違う、何かが違う。
「俺の事、好きなんだろ?」
「そうよ、恋人だよっ!」
「だったら…キス……してよ。」
「あ……。」
キス。それは恋人の証、彼の言ってる事は間違っていない。なのに体が何故か動こうとしない…、すると。
「行き成りじゃ、難しいよね。」
「へ?…」
そう言うと彼は、自ら顔を近づける。
キスをするんだ。
これで良い、これが正しい。
徐々に接近する彼の可愛い唇。
私は彼が好き、音楽に情熱を燃やし、家族思いで、一緒にいて楽しい。
私がかつて愛した絵描きは大好きだけど、もうこの世にはいない。
天国の彼を裏切る?…いや彼だってきっと許してくれる、だって散々言ってたもの、幸せに笑って過ごして…って。
だから、だから…これで、良い。
新しい恋を…。
「ダメだよ、写真じゃー。やっぱ本物の背景でないとさ。」
「色って不思議、だって異次元のように色んな未知の出会いがあるんだもの。」
「これで、親鳥の元へ帰れるな、良かったぁー。」
本能が、私に彼との想い出を、巡らせ…。
「いやぁぁぁーーっ!!」
「っ……。」
悲鳴を挙げ、彼を思いっきり突き飛ばし、その隙に無我夢中で部屋を出ていく。
「……。」
彼は、そんな私を追う事無く、ゆっくりと起き上がり、私が出てった扉に視線を落とし。
御免なさいっ!
本当にごめんなさい…!
やっぱり、やっぱり私は、私には……。
次回、20話に続く。