変人の温もり-1
何はともあれいつまでもここに居ても仕方がない。海斗は車を走らせる。
「おまえ、荷物とかないよな?」
「え?あ、うん。ないよ?」
もしかしたら崖の上に置いて来たかもしれないと思い聞いてみた。しかしやはり何もないらしい。そんな女性を見ながらふと気になった。別に聞かなくてもいいような事だが、聞かないと気が済まない性格だ。
「お前、何で靴はいてんの??」
「えっ?靴??」
「ああ。普通飛び降り自殺する奴って脱いでから靴揃えて飛び込まないか?」
「え〜?私、気持ちにそんな余裕無かったし。別に深く考えてなかったよ。」
「そっか。」
聞いたら聞いたでさほど興味がなくなった海斗。ぶっちゃけどうでも良くなった。しかし聞かれた女性は逆に気になって仕方がない。
「どうしてそんな事聞いたの?」
「ん?別に…。(ヤベぇ、食いついて来た。こいつ、面倒臭いタイプかも。)」
サラッと流して欲しかった海斗は少し困惑する。
「ねー、何で?何で靴履いてるのが気になったの??」
海斗の顔を見ながら聞いてくる。自ら招いた事態だ。仕方ない。なるべく早くこの話題から逃げようとする。
「いや、別に何でもないって。大して意味はないよ。テレビとかの飛び降りって靴そろえて置いてから飛び降りるから、そうゆーイメージあったから靴履いて飛び降りる人もいるんだな〜って思っただけで。」
ふと横を見ると少しふてくされたような顔をしている女性が見えた。
「あのさぁ、一応私、これでも人生に疲れ果てて命を絶とうとしてたの。けっこう傷心してるのよ?そんな相手によく飛び降りだの自殺だの平気で口に出来るよね…?」
いよいよ面倒臭くなってきた。海斗の思った事は口にしないと気が済まない悪い性格が思わず口を滑らせる。
「お、お前、面倒臭い女だな!?」
まさかの暴言に女性は怒るというよりあっけにとられたような表情を浮かべた。
「め、面倒臭いって何よ!?」
「面倒臭いから面倒臭いって言ったんだよ!いいか?お前は面倒臭い女だ!自覚しろ!」
ついつい熱くなってしまった海斗。しかし海斗の言葉を聞いた女性は逆に落ち着きを取り戻したような印象を受けた。
「そっか…。私は面倒臭い女なんだ…。確かに。ホントね。ホント面倒臭い女だわ。」
急に俯きしおらしくなってしまった。さすがの海斗も言い過ぎたと思った。
「わ、わりぃ、言い過ぎたわ。」
頭をかいて謝る。しかし女性はだいぶ穏やかになっていた。
「私、思った事を真っ直ぐに言ってくれる人、好き。なんか気持ち良かった。」
女性が言った偽りのない言葉にもついつい悪い癖を出してしまう。
「お前、マゾか??」
「ち、違うわよ!ば、馬鹿じゃないの!?」
「良く言われる。」
海斗はニコ〜っと笑った。その笑顔が大人になるにつれ失われていく純粋さにあまりにも溢れていて女性の気持ちを物凄く和ませた。
「暫くの間、お世話になります。」
そう言って頭を下げた女性が素直過ぎて軽く混乱した海斗。
「いや、かたじけない…。」
意味不明な言葉を口にして女性に負けない程に深く頭を下げた海斗だった。