変人の温もり-8
食卓に並ぶ料理の匂いを吸い込む海斗。
「見た目と匂いは合格だな。」
腕組みをして偉そうに評価する海斗。
「先生、お味の評価を♪」
両手で頬杖をつきニコニコしながら言った瀬奈。とても可愛らしく見えた。
「お前、美人だけど、物凄く可愛いでしょう顔もするのな?」
突拍子のない言葉に驚き少し照れた瀬奈。
「な、何よいきなり…」
「いや普通さぁ、美人って笑顔も美人だしなかなか子供のような可愛らしい顔に見える時もある女っていないもんだ。でもお前の笑顔、マジで可愛いんだけど?」
「ほ、褒めてるの?」
「ああ。まぁ今日一日しか見てないけど、お前の素直な笑顔ってそれなんだろうな。」
瀬奈はドキッとした顔をして少し言葉に詰まる。そして無意識に笑みを消し、呟くようにボソッと言った。
「もしかして私の本当の笑顔を見たのは海斗だけかもしれないな。」
「えっ?」
ハッとしたような表情を浮かべ慌てて言った。
「あ、な、何でもないよ…。改めては私の可愛さが分かったでしょ!それより味よ、味!早く食べて。」
「あ、そうだったな…。で、では賞味!!」
ブリを箸で掴み口の中について入れ味わうようにゆっくりと噛みしめる海斗。
「どう??」
少し心配げな顔をする瀬奈を見て、この顔も可愛いなと少し萌えつつも口の中に広がる海原のワンダーランドを見つけたかのような幸せに満ち溢れたような気持ちにな
る。
「旨い…、これは旨い!!」
そう言った海斗の箸が止まらない。ブリ大根を一気に平らげた。
「旨い!ブリをこんなに旨く食ったのは初めてだ!!」
感動のあまり瀬奈の両手を掴み、その喜びの大きさを伝える。
「本当!?」
「ああ!お前凄いな!!一体何者だよ!!」
「ふ、普通の女よ。だから言ったでしょ?お魚は大好きだって。」
照れが先に来たが、自分の料理をここまで褒め称えてくれた海斗が物凄く嬉しかった。
「信じる!!俺はお前を100%信じるぞ!?」
「あはっ、ありがとう。」
「そっかそっか。スゲーなぁ!」
そう言って半笑いしながら瀬奈の料理をひたすら頬張る海斗を見ているだけでまた少し生きる事への意欲を与えられた。
「ほら、お前も食え!」
「あ、うん。いただきます。」
瀬奈も料理を口にする。自殺を考え、ここ数日間食欲もなかったし何ものどを通らなかった。しかしごく自然に食べ物を口にしている自分に気付いたのは料理を2人で全て平らげた時だった。
「ごちそうさん!」
「ごちそうさまでした♪」
旨い料理を作ってくれたからと言って食器を洗ってくれた海斗が嬉しかった。その隣で食器を拭く自分が心地いい。
(少しだけこの人のそばにいたい…)
瀬奈は自分の運命を知りながら、目の前にいる変人と呼ばれる男の温もりに触れていたい…、そう思ったのであった。