変人の温もり-2
女性はだいぶ落ち着いた様子だ。そんな女性を見ていて靴よりも大事な事に気付いた。
「そう言えばさぁ、おまえ、名前何て言うの??」
根本的な事を聞くのを忘れていた。逆に女性が聞いた。
「あなたは?」
「お、俺?俺は海斗。葛城海斗って言うんだ。」
「海斗…。あはっ、らしいね!いかにも海が好きって感じ!」
「だろ?お気に入りの名前さ。」
鼻の下を擦り、得意げに笑う。
「おまえは?」
女性は悪戯っぽく笑いながら言った。
「何だと思う?」
海斗はある事をフッと思った。その顔を見て女性が突っ込む。
「あ!今また面倒臭い奴だって思ったでしょ!?」
ギクッとして驚く。
「な、何で分かったんだ!?おまえ、超能力者か!?」
その言葉を聞いて吹き出した。
「違うよ。顔に書いてあったの!わっかりやすっっ!」
「うるせ〜よ!」
からかわれて膨れる海斗。気にせずに女性は聞いてくる。
「で、何だと思う??」
「う〜ん、貞子!!」
「な、何でよ!?」
「だって海に浮かんでたおまえ、貞子そっくりだったぜ?まさに3Dだったよ!」
「うるさいなぁ…」
「リアル貞子!」
ふざけ始まる海斗に女性はイラッとした表情で言った。
「海斗もけっこう面倒臭い奴だね!」
しかし海斗はサラッと言い返す。
「俺は面倒臭いよ。自分でも思うもん。自分みたいな奴と話すの嫌だなって!」
「うわ〜、自分の事を棚に上げて良く人に面倒臭い奴だって言えたもんだわ。」
女性は気付いていないが、面倒臭い人間同士が会話し、ますます面倒臭い状況になっていた。しかしなぜがお互いに、この面倒臭い状況での会話にのめり込んでいたのであった。
「面倒臭い人間が面倒臭い人間見るとよけい面倒臭くなるんだよね。」
「そんな面倒臭い面倒臭い言わないでよ〜。なんか面倒臭くなってきたわ?」
「そりゃあ面倒臭い人間が…。」
エンドレスになりそうな会話に業を煮やした女性が海斗の胸元を掴んで睨みつけた。
「んだから私の名前は何だと思うのよっ!!」
「ひっ!!お、落ち着け…!?」
強制終了で面倒臭い話に終止符を打った女性。
「あ〜らやだ、私…。ンフッ!」
肩をすくめて舌を出し戯けてみせた。まだまだ女性の事を知らない海斗には掴み所がない人間に思えた。
女性は前を向き助手席に深く座りながら言った。
「瀬奈。瀬奈って言うの、私。上の名前は勘弁して?」
首を傾げるように振り向きながら言った。
「瀬奈か…。いい名前じゃん。」
「ありがとう。海斗はいくつ?」
何のためらいもなくいきなり海斗と呼んできた瀬奈にドキッとしながら答えた。
「俺は33歳のいいオヤジさ。」
「えー?見えないよ。もっと若く見えるよ。」
「そう?でも確実に33歳さ。せ、瀬奈は…?」
海斗は呼び捨てで呼んだ事に照れ臭さを感じた。
「いくつに見える??って言うと、また面倒臭がられるから〜!ンフッ、ハタチだよ。」
海斗は驚いた。
「は、ハタチ!?マジ…?」
「うん。何で?見えない??」
「もっと大人かと…」
顔は大人っぽく見えた。23、4歳ぐらいだと思ったが予想以上に若くてびっくりした。
「老けて見える??」
「いや、老けとかじゃなくて顔立ちが大人っぽいから。てかおまえ…。13歳も上の人間によくもそこまで堂々とタメ口叩けるなぁ??」
「え〜?それ気にする??あ〜あ、海斗メンドクサっっ♪」
「くっ…、こ、このガキ…」
「大人げないよ、海斗♪」
「ムカつくなぁ、おまえ…。」
「海斗、子供みたいだよ?ムキにならないならない♪」
言われてみれば13歳も下の女にムキになっている自分が馬鹿らしくなる。海斗は溜息をついて言った。
「でもまぁ、だいぶ生きてる人間っぽくなって安心したよ。」
海から上げた時に比べてだいぶ元気を取り戻した瀬奈に安心した。
「おかげ様で!」
ちょっとはにかんだ笑顔で答えた瀬奈だった。
海斗と瀬奈。これから不思議で奇妙な関係の生活が始まろうとしていた。