投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

バルディス魔淫伝
【ファンタジー 官能小説】

バルディス魔淫伝の最初へ バルディス魔淫伝 8 バルディス魔淫伝 10 バルディス魔淫伝の最後へ

拾われて飼われました 前編-9

島の秘密について語り出した黄金の瞳の種族の酋長に、ガーヴィが目を細め一瞬だが、冷酷な表情を浮かべたようにセリアー二ャには思えた。
「お前は酋長ゾルムではない。何者なのだ?」
「お前にアレを滅ぼすことができるか、さすればお前の求める者はその手に戻るであろう……」
セリアー二ャがその声を聞いて叫んだ。
「ディルバス!」
「そうだ。お前たちの世界では商人ディルバスとして存在していたもの。贄を捧げる者としての宿命から逃れることができなくなった愚かな法術師にすぎぬ。我はあの門の向こう側からあれに逃されて、お前たちの世界から、アレの贄となる者たちをこの島に導いてきたのだ」
「アレとは何だ?」
「獣人の皇子アルフェス。生まれながらに神に選ばれし者よ。そなたにはわかるまい。我は剣を血で染めて王位を簒奪することで王となった。傀儡にすぎぬ、愚鈍な王を殺害してな。ウルタールの猫人族の娘よ、ここは名も無き街ロバ・エル・カリイエのひとつだ」
ディルバスが酋長ゾルムの長年の過度の贅沢と飽食と飲酒によって蝕まれた肉体に思念を飛ばして支配し、セリアー二ャにも語りかけてきた。
ディルバスが肉体を支配すると、酋長は別の魂に支配され奴隷だけでなく、誰であれ欲情でさいなんだあげくなぶり殺す。島の人々は絶望の果てに諦念し、せめて思う存分に快楽を味わい尽くして死んでやると、酋長ゾルムの嗜虐や放蕩にならうようになった。
島の人々、とりわけ母親を目の前で父親の酋長ゾルムに贄にされた姉妹は、その絶望が根深い。
「そなたたちの獣人の世界ともこの世界とも異なる世界から、この世界に我は現れた。そして、この世界で帝国を築いていたリザードマンの種族の幼き女王を、我は殺害して王となった。我を導いたものは不死の命を得るための秘術を授けた……」
「そそのかされたのね」
「我はリザードマンの少女の喉を切り裂き、女王に選ばれし高貴なる血を啜った。我は帝国を統治した。死は反逆者どもの剣に貫かれようと、毒矢に射られようと我を滅ぼすことはなかった。やがて、反逆するのは辺境の山賊や海賊どものみとなった。我を導いたものによって預言を受け、事前に反逆者を捕らえられたのも支配には好都合であった」
「本当の支配者がいた?」
「そうだ。猫人の娘よ。我の奸計は万事ぬかりなく行われたかのように思えた。百年たっても老いることのない我をこの世界の民は恐れた。我はリザードマンの帝国だけではなく、金色の瞳を持つ種族の国々に戦をしかけて、帝国の版図を広げていった。だが……」
酋長ゾルムの目が開かれて、白眼が剥き出しとなる。
「我は金色の瞳を持つ敵国の姫を捕らえて城へ連れ帰り、奴隷の身として、身近に置いているうちに惚れ、愛し、側近どもの声を無視して妃として迎えた。妃が我の子を孕んでから、しばらくしてそれが過ちであったことに気づいた」
それまで導いていたものが授けてくれた神託の声が失われた。腹を裂いて異形の怪物が現れた。上半身は少女で下半身は蜘蛛ようなそれが、自分の子だと男はわかったが、すぐに殺そうと剣を手に斬りかかった。
それはたやすく毛むくじゃらの蜘蛛の足に払い除けられ、押し倒された。
金縛りにかけられた男の肌を這う少女の手と唇。ねっとりと吸いつき、つつみこみ、男を快楽に耽溺させる手管を知り尽くしていた。
そして行為が終わると男の元の世界にいた頃の名で怪物が話しかけてきて笑顔で男を「御父様」と呼んだ。
その声は男をこのリザードマンの帝国に導き、女王の少女を生け贄にすれば不死の命を授けると約束したものの声であった。男は討伐することができなかった。
「我は愛していた女の裂かれた腹から溢れた血を泣きながら啜った。そうすることを我が神にして娘でもあるあれに命じられたからだ。この王城から離れた島の男に憑依したり、おぬしらの世界の商人の男に憑依できるのは、この時に授かった力だ」
「お前の娘を殺せというのか?」
ガーヴィが重い口を開いた。
「この島の酋長ゾルムの命は尽きようとしている。アレの狙いが拉致した人間の娘か、おぬしか、猫人の娘かは知らぬが、扉のむこうでアレはおぬしたちを待っているらしい。アレを滅ぼしてくれ。そうすれば不死の呪いが解けて、我は愛した女の魂のもとへ詫びにゆくこともできるだろう」
酋長ゾルムは喀血し、呻き声を洩らして、ちょうど心臓のあたりの胸をかきむしったかと思うと、たちまち絶命してしまった。
立ち尽くしている二人の背後から、すすり泣く声がした。セリアー二ャが振り返るとそこには姉のラーダが泣きじゃくる妹スーラを抱きながら肩を震わせて嗚咽をもらして立っていた。
「この島は呪われているのです。百年間、贄を捧げなければ呪いが消えぬと父上に憑りついた者は私たちに告げました。その日、村の三歳以下の子らは死に絶えてしまいました。それからは、この島にいる女たちは子を宿すことがありません。それに発作が起これば男も女も欲情して残虐になるか、快楽に身をゆだねるしかありません。リザードマンの奴隷たちだけは発作を起こさぬので、私たちの世話をさせているかわりに贄には捧げないで、生かしておく約束なのです」
「ラーダ、島から逃げ出そうとはしなかったのか?」
「……できないのです。船が外海に出た瞬間に珊瑚礁に乗り上げるか海岸に打ち上げられてしまうのです」
セリアー二ャは闇の眷族のテリトリーに島がされてしまって、幼子が亡くなったり、女たちが子を宿さぬことや、淫らな発作の原因は山の洞窟から漂い出ている障気のためだと推測した。
「ガーヴィ、ディルバスの願いを叶えてやるのはしゃくだけど、魔道の扉のむこうにいるその怪物を討伐しなければ、いずれは私たちの世界も影響を受けるわ」
ディルバスの館に漂う気配は、生け贄の洞窟ほどではないにしても、障気の禍々しい気配だったのだとセリアー二ャにはわかった。
「あの洞窟に入れられて戻ってきた者はいるのか?」
姉妹は静かに首を横に振った。


バルディス魔淫伝の最初へ バルディス魔淫伝 8 バルディス魔淫伝 10 バルディス魔淫伝の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前