拾われて飼われました 前編-3
「せリさん、どうやって私を見つけたんですか?」
「ダウンジング」
「え?」
「ペンダントの鎖を指でつまんで、揺れたほうに行くと、いろんなものが見つかるのよ」
セリアー二ャがさやかにウインクする。
その夜、酒場でガーヴィは遺跡探索にパーティを組んで参加するメンバーと待ち合わせする予定だった。
ガーヴィがギルドで言われていた酒場に約束の時刻の少し前に到着した時には勝負が始まっていた。
BJ(ブラックジャック)というトランプギャンブル。
今回はディーラーとプレイヤーが一騎討ち勝負をしているようだ。
最初にプレイヤーに二枚、ディーラーに二枚、カードが配られる。テーブルの上に一枚目だけを伏せて、一枚は表にして配られる。
BJはディーラー有利なギャンブルである。
絵札(KQJ)を10点、Aは11点か1点と数える。
2〜10の数札はその数の点数で数える。
必ずプレイヤーが先攻で、山札からカードを引く(hit)か、手持ちのカードで勝負(stay)するかを決める。
手札の合計点数で、ディーラーとプレイヤーでどちらが21点(blackJack)にギリギリまで近づけるかを勝負するギャンブルである。
hitしすぎて21の境界線を越える(burst)は即負けとなる。
一回の勝負ごとにカードを回収してシャッフルすると、圧倒的にディーラーが有利となる。
それがディーラーが必ず後攻だからだ。
山札にある絵札とAの割合と数札の割合のバランス。
先攻の方がburstしやすく、それを警戒して16点以下でstayすると引き分けか負けとなりやすい。
店のルールで、ディーラーは合計16点以下の場合はstayしなければならないというルールを決めてある店は善良だが、この酒場はそうではない。
ディーラーがburstする可能性を低くしてある。
酒場に雇われたディーラーと不利な条件で勝負しているのは、翠石色の瞳の黒いカクテルドレスの美女。
瞳の色と同じエメラルドのネックレスにドレスと同じ黒髪と獣耳の褐色の肌の美女は、ガーヴィを見つけるとニッコリと笑った。
ディーラーは手元から隙に美女に2枚目のカードを配り終えた。カードの絵札と数字の10のカードには、細工で中央に小さな傷がつけてある。
本来プレイヤーに配られるはずの絵札の下にあるカードが素早く手で隠されて配られた。ハートの7。
ディーラーの一枚目の伏せカードに絵札、そして二枚目のカードはスペードのQ。合計20点。blackJackではイカサマが目立ちすぎる。
ディーラーはプレイヤーが勝負を降りてくれないかと期待していた。勝負しても合計20点。負ける気がしない。
「どうしますかお嬢さん?」
「そうね、じゃあ今まで勝った分もまとめて全額賭けることにしましょう。ただし、私が勝ったら配当五倍でいかがかしら?」
「負けたら没収も五倍ですよ、払えますか?」
「払えなければ私が体で払いますわ。hit!」
ディーラーは緊張しているふりをしてカードを伏せたままプレイヤーの前にすべらせた。
「これでstay!」
カードを伏せたまま彼女は言った。
「おやおや、開いてみないんですか?」
「絵札ではないのは確かですし、もう勝負は決まっていますから。ディーラーさん、勝負から降りるなら今のうちよ」
「こわいひとですね、貴女は……」
ディーラーに絵札ではないと言いきった。カードの傷に気づいていたとしても配るのはディーラー。
ディーラーは、わざとカードをチェックしてstayを宣言した。
「20」クローバーのJとイカサマで手にしたスペードのQ。ディーラーが手札を開示した。
「blackJack!」
見物客たちが歓声て拍手と口笛が起きる。
ダイヤの7、ハートの7、スペードの7。
美女の手札にディーラーは唖然としていた。
勝負ごとにカードを回収してシャッフルしたら、数札に当たる確率は高くなる。
でも10と絵札とAにしか傷はつけられていない。
ディーラーはイカサマをするなら、7の数札を二枚山札から初めから抜いておくべきだった。
「黒猫、あいかわらず器用だな」
「7が三枚はついてただけだけどね」
「ディーラーも絵札二枚でついてたな」
セリアー二ャにガーヴィが声をかけた。
ディーラがイカサマをしかけなければ、セリアー二ャの手札はダイヤの7とスペードのQ。ディーラにはクローバーのJとハートの7。
セリアー二ャはレート五倍の勝負を持ちかけなかったはずだ。
セカンドディール。カードを山札からディーラーか配布するとき、一枚目ではなく上から二枚目のカードを 配るイカサマ。
セカンドディールはプレイヤーが見分けることは困難である。最初カードを親指で少しずらして顔を出した二枚目のカードの先頭に指をかけて配る。これを素早く行なうと、まずプレイヤーは識別できない。
セリアー二ャは、ディーラーがマーキングされたカードで、セカンドディールをするタイミングを狙っていた。そこにガーヴィが来たのである。
セリアー二ャは、大勝負の前にはほとんどのカードをそれぞれ一枚ずつマーキングしていたのである。カードに傷をつけたわけではない。黒猫にしかわからない匂いをつけたのだ。
酒と煙草の臭いの中で、黒猫のマーキングを嗅ぎわけるのは常人では不可能である。
山札を一枚配布するたびにディーラーがシャッフルしていれば、セリアー二ャにもどこに何が入っているのかわからない。
一度セリアー二ャの手札に来たことのあるカードは、マーキングされペンダントの飾り石に記憶される。
ペンダントを身につけていれば指先をカードに触れただけで、一度手元に来たカードを識別できる。
まだレートの低いうちはマーキングに専念するためにburstする回数が多くなる。レートが上がるたびに、勝率が上がる。相手がイカサマを使い勝ちを確信した瞬間に、セリアー二ャも本気で相手を潰しにかかる。