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バルディス魔淫伝
【ファンタジー 官能小説】

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拾われて飼われました 前編-16

「二人とも一緒に来るんだ」
蛙人コル=スーはラーダの手首をつかんで言った。
「しかし、私はこの島の酋長の娘として……」
「なら、おいらがこの島の最後の酋長だ。おめぇらは行ってくれ、おいらが残る!」
蛙人コル=スーが言った。
その瞬間、島が揺れた。
地響きが鳴り響く。
海へ逃げようとする者、自害する者、熱と硫黄の臭気が満ちていても交わり続ける者。あわれな人々をあざけるように、島の中央の山頂から天までとどく火柱がほとばしる。
流れ出た溶岩は、すべてを押し流しながら燃やし尽くしていく。
真昼の青空は煙と火山灰で暗黒に代わり、火の石と灰が降りそそいだ。美しい退廃の島を裂くように炎が荒れ狂っていた。
気がついたときには蛙人コル=スーの姿はなかった。ラーダとスーラの姉妹、メリル・ストリ、ガーヴィとセリアー二ャはいにしえの神の導きによって島から瞬間移動していた。
蛙人コル=スーは自らの命を捧げて、姉妹の命を救ったのである。
五人は阿鼻叫喚の地獄のようなカラーム島の光景を移動するときに見ていた。
それはすぐに闇に閉ざされて消えてしまった。
さらにセリアー二ャはディルバスが憑依していた男が洞窟の前で這い出てきた腐肉に捕食されたのと同時に地震と噴火が起こったのを見たのだった。
ディルバスは島の世界から逃げ出そうとして、失敗してしまったのである。
這いずる腐肉は溶岩にのまれて消え去った。
姉妹は「あばよ、幸せになれよ」と蛙人コル=スーが言った別れの言葉を聞いたそうだ。
メリル・ストリは無人島になった島に、調査に訪れた船が近づいてくる光景を見たという。
ガーヴィは何を見たり聞いたりしたのか、何も語ろうとはしなかった。
五人は王都クラウガルドの聖騎士団の本部でもある大聖堂の儀式の間に現れた。
「黒猫ちゃん、おつかれさま」
待っていたのは王女エルシーヌとジョンである。
「三人は私が保護するから安心して」
エルシーヌはにっこりと笑うと、三人を王城に案内するようにジョンに言った。
メリル・ストリ、ラーダとスーラの姉妹は大聖堂からジョンに案内されて王城へ向かった。
「あなたたちが、異界の扉の法術で旅立った翌朝には騎士団が館に踏み込んだの。館の地下室に祭壇があった。床に人型に床が焼け焦げていて、初老の老人はいなかった。すっかり焼けて、ちりになってしまっていたわ」
セリアー二ャは戻る直前に見た光景を王女エルシーヌに話した。島の噴火でディルバスは焼かれてしまったのだ。
「祭壇から何を信仰していたのかわかったのか?」
「滅びを紡ぐものアトラク・ナクア」
ガーヴィに王女エルシーヌは真顔で言った。
セリアー二ャは酋長に憑依したディルバスが敵国の姫を奴隷にしたあと、王妃に迎えたが、王妃の体を裂いて現れたのは上半身は少女で下半身が蜘蛛の異形の怪物であったと語っていたことを思い出した。
「ディルバスめ、厄介なものを……」
ガーヴィがつぶやいた。過去や未来から島に人が現れたのはそのためだったのである。
アトラク・ナクアは蜘蛛の姿をしている神で、この神は世界の裂け目を蜘蛛の巣でつなぎ合わせてしまう。すると世界の裂け目がつながってしまう。
過去と未来、同時に存在している異なる世界、それらの境界を曖昧にしてしまうのである。
アトラク・ナクアそのものは世界の裂け目にいるために、執拗なる追跡するものティンダロスの猟犬のように実体化していない。
アトラク・ナクアの蜘蛛の糸を切って世界の融合を切り離すことは難しい。切り離した世界には戻れなくなるからだ。
破滅を紡ぐものと呼ばれているのはアトラク・ナクアがあらゆる世界をつなぎ融合させてしまうと、万物の王アザトースは夢から覚醒すると伝えられていることや、つながった世界のいにしえの神々がどちらが支配するかを決めるために紛争を起こすことがある。
その紛争の結果として宮殿で人が石化したり、呪いや天変地異で島が滅亡したりもする。
ディルバスはヨグ=ソトースの力で世界を渡るのではなく、アトラク・ナクアに世界をつながせて渡ったのである。
ヨグ=ソトースによって世界を渡ることを許された者でなければ、ティンダロスの猟犬に追われる。
猟犬といっても、その形状は巨大な泥のようであったり、ナメクジのようであったり、巨大な昆虫であったり、その世界にいるものだがどこか歪んだものであることが多い。
許されざる者を見つけたディルバスは自分の身代わりに、ガーヴィの拾った人間の娘を贄にした。
ティンダロスの猟犬から逃れようとして。
ディルバスが人間の娘さやかを贄にしたことで、リザードマンが世界の覇者である世界を簒奪したのに手放すことになったのだ。
「ガーヴィが読んでいる本が何かわかる?」
「無名祭祀書と聞きました」
「そうよ。ガーヴィはあの本を手に入れて、さやかを世界の裂け目からこの世界に召喚したの」
ディルバスは無名祭祀書を手に入れて、アトラク・ナクアについて知り、世界を渡ろうとしたのである。
この奇妙な書物は王女エルシーヌによって回収され、セリアー二ャとガーヴィをさやかをアトラク・ナクアから奪還するためにディルバスの支配していた過去の時代のバルディス大陸へと導いたのである。
「獣人がバルディス大陸に存在することになったのはアトラク・ナクアの力でこちらに転送されてきたからだと、その旅でわかったのよ」
セリアー二ャはさやかに世界の秘密を教えようとしていた。
滅びの島から帰還したセリアー二ャは王女エルシーヌから、魔導書を手渡された。
「彼に感謝して。あなたを見つけて召喚できたのは、彼のおかげよ」
魔導書はセリアー二ャに語りかけてきた。
(さて、わしのことはおぼえておるかな?)
セリアー二ャはその心に直接、話しかけてくる声を聞いて懐かしさを感じた。
それは呪われし島に二人を運んだ海賊リザードマンのヤン・キースの声だったからである。


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