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バルディス魔淫伝
【ファンタジー 官能小説】

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拾われて飼われました 前編-11

蛙人コル=スーが上目づかいで、セリアー二ャを見つめていた。怯えたイタズラ小僧の目つきである。
「私はそんなにこわい女じゃないわよ。コル=スー、化け物ってどんな姿をしてたか説明できるかしら?」
「もう一杯、もらっていいか?」
酒を飲んで、ただ荒々しい息づかいとぬらぬらと這いずる音が近づいてきて、気づいた時には腐肉の巨大な塊が引きずられているような、目も口もないものに遭遇し、仲間が取り込まれてしまった様子をコル=スーはセリアー二ャに話した。
「引っ張りだそうとしたんだが、すぐに手と顔だけ出ているだけになった仲間をくっつけたまま、化け物はおいらを残したまま這いずって行っちまった。顔と手だけ出てる仲間がおかしくなって、気持ちいいとか叫んでたのを見て俺は必死で引っ張ったら、手だけもげてしまって。驚いてそばの部屋に逃げこをだわ。あの腐れ肉の中で溶かされちまったんだと思うんだ」
半人半蜘蛛の怪物ではないモノも宮殿内に徘徊しているらしいことがわかった。
盗賊の蛙人コル=スーは鍵のかかった部屋を見つける
と「錆ついたまま固まってやがるな」と文句を言いつつ、器用に針金の串のようなものを鍵穴に入れて、しばらく待てば解錠してしまう。
「もし、コル=スーがいなかったら、宮殿に地下への隠し扉があるなんて、私たちは気がつかなかったわ」
魔道に詳しく、また旅暮らしを女一人で続けてきたセリアー二ャは簡単な手品の仕掛けは見抜いてしまう、手先も器用なので鍵開けぐらいはできる。
ただし、思い込みというもので思考が縛られていなければの話である。
「私たちは宮殿は魔道の力で支配されているものと思い込んでいたの。でも、コル=スーは魔道の知識がなかったから思い込みがなかったのよ」
さやかにセリアー二ャはそう言うと話を続けた。
盗賊の蛙人のコル=スーは宮殿の見取り図を探していた。いくら宮殿が広くても、そこで働いたり暮らしていた者たちがいるなら、どこかにあるはずだと言うのである。
セリアー二ャは宮殿が結界の中にあり、悪夢のように同じところを行ったりきたりするような、迷路のようにされていると思い込んでいた。実際にそうだったがコル=スーは扉に印をつけたり地図を作りながら歩きまわっていた。
「見せてくれる?」
コル=スーは回廊で見かけた石像についてと、また扉には種類があってどの部屋につながるかを丁寧に記録してあった。
「同じ扉を開けても別の部屋に変わるのね」
「そうなんだよ。開けて閉めて、部屋が変わったときは驚いたけど、じゃあ、部屋から出るときに別の扉から出てきてるんじゃないかと、おいらは思ったんだ」
宮殿にどんな部屋があるのかわかれば、回廊を行ったり来たりを繰り返すことが少なくなるはずで、化け物に見つかりにくくなるはずだとコル=スーが言う。
「鍵がかかってる部屋は、扉を開け閉めしても中がかわらないっていうのが、おもしろいだろ?」
「目印になるってわけね」
「……この宮殿の見取り図があれば、鍵のかかってた部屋から、どこにいるかわかるはずなんだけどなぁ」
瞬間移動させられる仕組みを魔道の知識がない盗賊の蛙人コル=スーなりに考えていたようだった。
「コル=スー、わかったぞ」
ガーヴィがそう言って歩き出した。
「ここは、私たちが転送されたところ」
「そうだ。歩きまわるほどこの宮殿は迷うように作られていて、徘徊してるやつに見つかると喰われる」
「おいらには全くわからねぇけど、まあ、いいか」
「コル=スー、どうする、一緒に来るか?」
「行くよ。ここはもうまっぴらごめんだからな」
三人で床に手を当てた瞬間、回廊や石像の光が消えて視界が闇に閉ざされた。
セリアー二ャが鬼火を灯すと、そこは生け贄の洞窟なのだった。コル=スーはそっと、鬼火にふれようとする。すると鬼火が素早く逃けて高い位置から三人を照らしていた。
「おおっ、風と青空だ!」
洞窟を出た蛙人コル=スーが叫んだ。
セリアー二ャは姉妹のいる酋長の家に行った。コル=スーは姉妹を見て、石像と同じ種族だと驚いた。
酋長の葬儀が行われたことで、島の人々は弔いのしきたりに従い、五日間は外出もひかえていた。
「生け贄の洞窟のむこうには、そんなものがあるのですか?」
「化け物が徘徊なんて……」
姉妹はセリアー二ャから話を聞いていた。
「指輪は見つからなかった」
ガーヴィが言うと、コル=スーが背負い袋を下ろして、中から銀の指輪を取り出した。
裏側には姉妹の両親の名が刻まれていた。
「コル=スー、これは?」
「回廊で落ちてたから、拾ったんだ」
姉妹は蛙人コル=スーに、指輪を見つけてきた者にはどんな褒美も与えると、生前に島の酋長が宣言したことを話した。
「親の形見を取り上げるなんて、おいらはそんな野暮なことはしねぇよ」
姉妹は形見の指輪を受け取ったあと、蛙人コル=スーを見て困った顔になった。酋長の指輪を見つけてきた者に姉妹を与え、その者を新たな酋長とすると決まっていたからである。
ガーヴィとセリアー二ャが神託を受けて生け贄の洞窟に向かったと、島の人々は姉妹から聞いていた。
「おいらが島の酋長ってわけかい?」
蛙人コル=スーに姉妹はうなずいた。そして島の呪いについて話を聞かせた。
「ひでぇ話だ。ガーヴィの旦那、その呪いとやらはどうしたら消えるんだ?」
この世界の皇帝ディルバスを配下とする妖魅がおり、その怪物の支配から解放しない限り呪いは解けないとセリアー二ャがコル=スーに教えた。
コル=スーは異界の神殿に迷い込み、這いずる腐敗した肉塊と遭遇したことや、世界を渡る力で脱出したから、呪いというものがあると理解した。だが、姉妹のためにコル=スーは何ができるのか考えてみた。だが魔道の知識がないのでわからない。
このままでは島から結界の力で出ることができない。
「コル=スー、この世界を救うことはできないけど、この島の呪いの根源を絶つことはできるわ」


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