筆さばき、色のとりどり-7
「さあ、さっき言ったとおり、おまえが上になるんや」
促され、お絹は嘉兵衛の身体に覆いかぶさった。屹立している肉竿の上に女陰を持ってくる。それは先刻の交接で十二分に潤っていたので、彼女が怒張を片手で固定しながら腰を沈めると、亀頭は暖簾を潜る感じですんなりと秘壺へと入っていった。
「う…………」
お絹の膣に甘さが生じた。今宵、二度、逝きに達した女体は火がつくのが早かった。魔羅を丸ごと呑み込んだだけで、女陰は悦びでひくついた。
「ああぁ…………」
お絹は上から嘉兵衛に抱きついた格好で、しばらくじっとしていた。が、やがて、白い尻がモゾモゾし、少しずつ波打ち始める。
「ん…………。ああ…………」
遠慮がちにお絹は腰を動かす。嘉兵衛は寝そべったまま、女の背中に置いた手を優しく滑らすだけ。魔羅の突き上げはしなかった。
秘裂は怒張を緩慢に呑んだり吐き出したりしていたが、
「だ、旦那様……」
「うん?」
「好きに動いてよろしいのですね?」
「ああ、ええよ。なんぼでも好きにしなはれ」
男の了解を得て、お絹は腰の振りをやや速めた。気持ちよさが色濃くなった。
「ああーーん。…………いい」
男に突かれるのもいいが、自分で恣意的に腰を振るのは、また別な味があった。
「ううーーーん。……ああーーーーん」
嘉兵衛に胸を合わせて腰を振っていたが、上体を起こして尻を揺すってみる。すると、怒張の先が子宮(こつぼ)にグリグリ当たり、とても具合がいい。
「あはっ…………。ううっ…………。ふむうっ………………」
嘉兵衛が舟、お絹が帆。帆掛け船のような交合だった。お絹はこれが気に入った。盛んに腰を前後に滑らせる。亀頭が膣奥を撹拌する。えげつないほどの喜悦が湧出する。
「んはっ……。あはっ……。んあっ……。んぐっ……。んぐぅーーーっ!」
嬌声もえげつないものになる。お絹の腰の揺れは前後だけのものから円を描くようなくねりも交え始めた。
(ああーーーーー。いいっ。……これ、いいっ!)
お絹の尻は、もう、思うがままに揺れていた。肉竿を軸にして奔放に回転していた。そして、今宵三度目の絶頂が彼女を襲う。腰のくねりが突如止まり、
「うぐっ………………………………!!!!」
悶絶すると、その腰が細かくブルルルっと震えた。腹にもさざ波が立ち、脚も微かに痙攣していた。束の間の甘い悶死だった。
嘉兵衛の身体に崩れるようにお絹が倒れ込むと、男はしばらく女の背中や尻を撫で回していた。
ややあって、嘉兵衛は一旦結合を解き、お絹を優しく横に降ろすと、体を入れ替えて上になった。
「そろそろ、総仕舞いにしまひょ。……あんじょう、極楽往生させてやるさかい、付き合いなはれや」
嘉兵衛はお絹の愛液で濡れそぼった肉の抜き身を、充血した彼女の肉の鞘へと収めた。そして、お得意の、そろりそろりとした腰遣い。
三度目の絶頂で、やや意識が朦朧としていたお絹であったが、秘部に新たな摩擦を覚え、眉間に甘い皺が刻まれた。度重なる交接で、膣襞は充血し、これ以上ないほどに感じやすくなっている。ゆえに、嘉兵衛のゆったりとした抽送でも十分に感じることが出来た。
「んああ〜〜〜〜〜〜。ふむーーーん………………。はああ〜〜〜〜〜〜〜」
嘉兵衛の肉筆は、あくまでも淡彩を描いていた。だがお絹は、薄味ながらも滋味豊かな交情を再確認していた。角蔵との激しい交接では味わうことのなかった世界。「乙な味」とはこのことだった。
「あんん〜〜〜〜〜〜。……うんん〜〜〜〜〜〜〜」
いつまでも続く微細な肉筆遣い。肉欲の彩色。
やがて、嘉兵衛の腰の律動が、少々速くなる。蜜壺に生じる快味の色が微妙に濃くなる。この、快感の濃淡がお絹には嬉しかった。そして、嘉兵衛が腰をひねって挿入の角度を変えると、肉壺の違う部分が刺激されて、異なる色の悦びが生じるのであった。
「あはっ………………。たまらない…………。もっと、……もっと…………」
あらゆる角度から抜き差しされ、肉筆は、とりどりの色彩を秘壺の中に描いた。その壺からは白く水っぽい糊のごとき愛液が溢れ、会陰、肛門を経て蒲団を濡らしている。
「お絹。ずいぶんええ塩梅みたいやな……。そんなら、これはどないや」
嘉兵衛は魔羅を抜くと、掛け蒲団を引っ張り、二つに折ってお絹の臀部の下に潜り込ませた。女の下半身がわずかに上がる。腰高の本手どりで魔羅を再び挿入した。
「ああぅっ。……これも……いいっ。…………凄い!」
亀頭が膣の腹側を強く擦り、お絹の喜悦が深まった。
肉襞の感度の強い部分を刺激され、彼女は悶える。その反応に確信を得て、嘉兵衛はこの体位での交接を継続した。根気よく肉の筆を操った。
「ひうっ…………。いいの…………。いいの…………。いいの…………」
「そうか。……ええか。…………ええのんか」
「うん。……いいのぉ…………」
お絹の目は虚ろになっていた。それがやがて閉じられる。
彼女は今、絢爛たる色彩の乱舞を瞼の裏に見ていた。それは幻影だったが、下半身に広がる愉悦は本物だった。角蔵との交接もよかったが、嘉兵衛との性交(まぐわい)はもっと味が深かった。「じらし」が入るぶん、その後の快感が段違いに色濃かった。
「ああ〜〜〜〜ん。……だめっ。……また逝きそう…………」
お絹はそう漏らし、しばらくして、その言葉通りになった。背中をグッと反らし、両脚を開いたまま突っ張った。身体中のあらゆる部分が震えている。肉壺に深く嵌まった嘉兵衛の怒張が短い間隔で絞り上げられた。
ちょっと見には苦悶の表情ともとれる顔をしていたお絹だったが、激烈な「逝きの野分」が身体を吹き過ぎると、眉間から力が抜け、呆けたような顔つきになった。