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ひこうき雲
【SM 官能小説】

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(その1)-6

ノリちゃん、お客さんだよ。レジやってくれる。早朝のコンビニで、飲料水をケースに並べて
いた店長が、フライドチキンを揚げていた私の方に叫ぶ。レジに客がいることに気がつかなか
った。レジ前に立っているどこか落ち着かない中年の女性の客は、私が出演した女高生ものの
AVを購入しようとしていた。白衣を着ている姿から、近くの病院の看護婦さんらしい。少し
恥ずかしげに差し出す。

もちろん私が見るわけじゃないのよ。勘違いしないでね。私の病院のある男性の患者さんが
どうしても「風間 澪」という女性が出演したビデオを買ってきて欲しいっていうものだから。
ネットの通販でいろいろ探していたけど見つからなくて。まさかここに置いてあるなんて思わ
なかったわ。彼って真面目な患者さんなのに、男ってやっぱりこういうものを欲しがるものな
のね、と言いながら、差し出したお釣りのお金とレシートを財布に入れる。

彼女はAVの表紙の女が私であることにもちろん気がついていない。私はちょっと戸惑うよう
な笑みを浮かべ、レジ袋にビデオをいれる。

それでね、その男性の患者さんが、このAVに出ている「風間 澪」という女性が彼と同じ高
校出身の二歳年上のある女性と同一人物であることを誰からか聞いたみたいなのよ。でも、彼
は信じていないのよ。なぜって、その女性は彼の初恋の女性らしいわ。
と言いながらその看護婦さんはレジ近くのお饅頭をひとつ手にすると小銭をカウンターに置き、
何かの用事を急に思い出したように慌てて店を出ていった。

…えっ、高校のとき二歳年下の男の子って誰かしら。私はあの頃のいろいろな記憶をたぐり寄
せてみる。私が初恋の女性だなんて…その患者さんって、もしかしたらあの男の子のことだろ
うか…。



土曜日の夕方、コンビニのバイトが早番だったのでカフェに寄ってみる。いつものように舞子
さんが隅の席でパソコンを打っていた。
舞子さん、今日はお休みなんですね。ところで舞子さんって、いつもどんな小説を書いている
んですか。へぇー、SM官能小説ってびっくりですね。SMって女の人を鞭で叩いたり、縄で
縛って蝋燭で虐めたりするんでしょう。私はSMプレイを知らないわけでもないのに、わざと
驚いたような顔をする。舞子さんはSなんですか、Mなんですか。えっ、どちらなのかあてて
って言われても、よくわかりませんよ、と言いながら、私はアイスカフェラテで渇いた咽喉を
潤す。甘い香りが口の中にふわりと拡がる。

ふとカフェの窓から空を見上げると、ひこうき雲が黄昏の夏空にくっきりと線を描いていた。
私のAVを買ってきてくれるようにあの看護婦さんに頼んだ患者さんって、あの駅で私を見つ
めていた「吹田カオル」という名前の男の子なのかしら…。




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