彼女が水着に着替えたら-1
密かな期待を胸に秘めた俺を乗せた車は、トータル一時間ほどのドライブの後、ようやく目的地にたどり着いた。
「わあ……!」
車から降りた俺達は、目の前に広がる光景に、思わず感嘆の声を漏らした。
潮の香りと、生ぬるい風が俺達の頬を撫でていく。
さっきの芋洗いみたいにごった返す海水浴場も、ひなびた店も、まばらにしか無い民家もどんどん通りすぎ、すれ違う車ですらも、少なくなっていって、やっと着いた先に目的地はあった。
ポツンと一軒だけあったログハウス。
道路を挟んだ裏手は、緑が眩しい山。そしてログハウスの前に広がるのは、貸し切り状態の静かな海。
そんな場所に、歩仁内家の別荘はあった。
「すげー! 貸し切りじゃん」
キラキラと日射しが反射する水面に目を細めながら、修が声を上げた。
「まあ、海と山しかない辺鄙な所ですが」
「いやいや、充分だろ。ホントにこのコテージ使っていいのかよ? さすがに金取った方がいいんじゃね?」
「いいんだって。誰も使わないから、利用してもらう方が助かるんだって。それに……」
修の横に立って大きく伸びをしていた歩仁内が、突然こちらをクルリと振り返ったかと思うと、ニイッと笑いながらやって来た。
「……な、何だよ」
その意味深な笑みにたじろいでいると、ヤツは俺の肩にガッと腕をまわし、
「大山には頑張ってもらわないと。
部屋は3部屋あるからさ。男部屋、女部屋にわけて残りの一部屋で中川さんと泊まっていいからね。
その時は、おれ達みんなでドライブでもしてるからさ」
と、小声で囁いた。
「…………!」
途端に顔がカッと熱くなる。
やっぱり、修も歩仁内も本気で俺が勇気を出してもらおうと企んでいる。
「アレ、ちゃんと持ってきたか?」
気付けば修までもが俺の左隣に来て、肩に腕を回した。
俺を間に挟んでガッチリスクラムを組む光景を、沙織はどう思ってるだろう。
「……持ってきたよ、ちゃんと」
こんな風に徒党を組まれると、どうしても立場は弱くなる。
このキャンプが始まる前に、コンビニで俯きながらやっとの思いで買ってきたコンドーム。
いかがわしいDVDを観てる時は気持ちが大きくなって、“ぜってー沙織とヤッてやる”なんて意気込むくせに、いざレジに持っていくときは心臓がバクバク鳴って、怖じ気づいて。
そんな俺はこっそりと、女の子同士ではしゃいでいる沙織の姿を目で追う。
すると、沙織が俺の視線に気付いて、無邪気な笑顔で手を振ってくれた。
そして、心の中で一人気合いを入れるのだった。