修羅場の後始末-10
『そいつに代われ』
「はい、代わります!申し訳ありませんでした!」
田代の横で一部始終を聞いていた星司が電話を代わった。
「お手数を掛けて申し訳ありませんでした」
『どうってことはない。それよりも、これを機に各務家と繋がる事は出来ないのか』
「申し訳ございません。それは月治から止められてます」
『なら、無理強いはできないな…』
あっさりと引いた鬼頭は早々に電話を切った。
田代はしばらく愕然としていたが、冷やかに自分を見つめる星司を見て、再び怒りが沸き上がってきた。
「てめえ、何モンだ!いくら総長が言ってもオレは許さねえ!」
「S町2丁目7番8号」
星司が言ったその住所を聞いて田代の顔色が変わった。
「な、なんだと…」
「結衣と麻衣か。嫁さん似で良かったな」
「ど、どうして…」
田代が子煩悩で娘を溺愛している事は、田代に触れた星司には手に取るようにわかった。
「高1と中2か。麻衣はまだでも結衣はもう経験も済んでるだろ。ビデオカメラも有る事だし、これ以上ゴタゴタぬかしたら、美人の嫁さんとの親子どんぶりを撮ってきてやろう。お前は乳首を甚振るのが好きだったな。父親のリクエストと言って麻衣の乳首を甚振ってやろう」
「やめろおおおおお!」
この男ならやりかねない。そう思った田代は目の前に突きつけられたアイスピックもお構いなく暴れ出した。
それを手島がアッサリと抑え込み、その田代の髪を星司は鷲掴みにして顔を引き寄せた。
「いいか、一度しか言わない。私の指示通りにしろ。そしてここを出たら私達のことは全部忘れろ。でないと可愛い家族を巻き込むぞ。これは生涯掛けての命令だ。何年経ってもお前が私達の事を詮索したら直ぐにわかる。いいな」
淡々と話す星司の声に、改めて恐怖を覚えた田代はガクガクと頷いた。
ようやく大人しくなった田代に、星司は次の事を命じた。
浅見と啓太を自分達の前に2度と現れないように、生涯タコ部屋に縛り付ける事。念のためS組からは破門し、2度と暴力団関係に関われないように廻状を出す事。被害を受けた女性に対してS組が1人300万円の賠償金を用意する事。S組の責任に於いて顧客を廻って販売したDVDを全て回収する事。そして最後に、S組がそれらを履行しない場合は、H会にそのケツを持っていく事になる事を付け加えた。
H会に持っていかれたら、堪ったもんじゃない。若頭の地位どころか、下手したら破門にされてしまいかねない。
(浅見はとんでもない奴らに手を出しやがった…)
H会の総長までもが一目を置く、自分達とは次元の違う集団を前に、田代はガックリと肩を落とした。
星司の関心はもう田代には無かった。星司の関心は、浅見達が保存しているはずのデータに有った。
星司が啓太の右手を残しておいたのは、別に啓太を許した訳では無かった。それは被害女性のデータと顧客データを引き出さすためだった。
啓太は苦悶の表情を浮かべながら、星司に言われるままパソコンを立ち上げ、ぎこちない手つきで被害女性の情報と、顧客データを引き出させた。そしてそれが終わると保存していたデータを全て消去させた。
「バックアップは録っているのか?」
「い、いいえ、録ってません」
啓太は咄嗟に答えた瞬間、今までパソコンを操作していた無事な右手を星司に掴まれた。
「懲りない奴だな」
星司は掴んだ数本の指を一気に折り、それで残った指も余す事なく全部折った。
「ぐぎゃあああああ」
泣き叫ぶ啓太を無視し、星司は手島に声を掛けた。
「陽子に連絡を取って下さい」