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音楽
【純愛 恋愛小説】

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音楽―後編―-3

「隼人…時間がない。」

シンが申し訳なさそうに告げた。由香はシンを見るが、隼人は前を見たまま受けとめた。

最後にひとつだけ。

「もう一度会えて良かった。もう一度触れることができて良かった。」

「隼人…。」

隼人の笑顔は穏やかで、もうこれが最後なのだと知らせていた。

由香を大切に抱きしめる。

「由香に未来があるように、僕にも未来がある。僕はまた生まれ変わるよ…。」

体を離し二人は向き合った。だけど、と隼人は言葉を続ける。

「この体、名前、記憶を亡くしても僕は…僕の想いは生き続ける。きみの中で。」

隼人の笑顔が光に包まれる。もう輪郭も薄れてきていた。別れの予感が由香を泣かせてしまう。由香の目には涙があとからどんどん溢れだして、最後の笑顔が滲んで見えない。

何度も目を閉じて涙を流すが、溢れだす涙は隼人を滲ませた。

確実に隼人は消えつつある。

「由香…。」

最後になる。これが永遠の別れになる、分かっていてもお互いが何を伝えたらいいか分からなかった。

光はどんどん強くなり、隼人の輪郭を無くしていく。何かを伝えなきゃ。隼人の体は浮き始めた。

「…待って、いかないで…。」

少しずつ隼人の体は由香から離れていく。シンは旅立とうとする隼人を受けとめる為に空で待っている。

「由香…。」

かすかに隼人の声が聞こえる。これが最後の言葉だと、由香は確信した。地面から離れ、自分からも離れそうな隼人に向かって叫ぶ。

「私は斎藤隼人を忘れない!あなたの顔も声も名前も全て…私が愛した想いも全て忘れない!」

光は離れた。でも由香には隼人が笑っているように見える。ありがとう、そう隼人の言葉が聞こえた気がした。

光はシンの横をすりぬけ天に昇っていく。シンはそれに続いてはばたいた。

光はやがて空に吸い込まれる。

「…忘れない。」

空を見つめる由香の手には隼人からの、まだ読みかけの手紙があった。

隼人が旅立った空をいつまでも見つめる。由香の涙はいつのまにか止まっていた。

そして歌う。愛しい人に祈りをこめて歌う。

アメイジング・グレースを。


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