断ち切って…-2
人も居ず、カバンを提げてる訳でもない1席の空席。
教室掃除の子が一応使ってないとはいえ、拭いてくれてる為、埃が被るような事はないものの、私はその窓側の席が埃で古くなっているように見えて仕方が無い。
高2へ上がった時、人ばかりとなっていたクラス発表の掲示板。それに緊張した面持ちで
目をやると、『織原杏、御園菫』と記されており、お互い手を握り合い歓喜の声を挙げ。
更に続けて確認をするとソコに『長谷川絆』の名前も載っており。
…つまり、この空席は彼の物。本来であれば彼がこの席に存在した事となる。
「杏、戻ってきて。僕はここに居るよ…。」
そう呼びかけているような暗いオーラを、教室へ入る度そう思わせきて。
ううん!関係ない!彼は死んだんだ、家族に見捨てられアノ病院で死刑執行を待つ囚人の
ように…。
「ちょっと!屋上について来なさいよっ!」
口を開けボーと机を眺めていると、4、5人の女子達が不機嫌そうな顔で腕を組み、私の元へ詰め寄ってきた。
彼女達の用件は、案の定例のオトメン君に関しての事だ。私達以外居ないこの屋上で私は
網壁を背に、鬼のような形相で睨まれ。
「ねぇ!アンタはオトメンの何なの?」
オトメン事、東堂君を特に好意を寄せる女子はそう呼び、乱暴な片足を私の横に壁で付け
「……。」
大概の人ならここで怖気づくトコだが、私は不思議と動じない。こんな嫉妬に燃え振り向いてもらえないカラと、関係のない私に逆恨みをするような奴ら。私は特に何を口に出す
でもなく、こいつ等を見下すように無視をして。
「おいっ!何とか言えよっ!」
「……。」
こんな連中しかと、シカトしてやる。駄洒落かね。こういう事は常に怯えず舐められないよう強気で軽くあしらうのが一番。さっきから態度のデカイ私に弱り果てたりイラついたりする女子共。
「てめぇっ!生意気なんだよっ!しばくぞコラァ!」
痺れを切らし胸倉を掴む、先頭に立ってる『八雲沙織』と言う同じクラスメート。身長もやや高めで長い茶髪のストレートパーマが、人々を威圧しているようにも感じる。私はその手を軽く払いのけ。
「やめようか、こういうの…。」
「おっ、ようやく怖気づいたか?」
そして私は声のトーンを一気に下げ、不敵な笑みを浮かべ彼女達に言い放つ。
「怪我…させたくないカラ…。」
「!っ……。」
どこぞのアニメのキザな決め台詞を口にし、それを耳にした彼女達の頭の血管が切れ。
「どうやら少し痛い目に遭わないと判んないようだな。」
「覚悟はいいな?」
今まで大人しく後ろにいた奴らが殺気を抱き囲み出し、八雲は再び私の胸倉を掴む。何か、不良アニメみたいになってきた。
これから私は八雲達にリンチされる…。何てノープログレム、こうなる事も想定しここでも動じる事なく、私はゆっくりとした口調でこう語る。
「覚悟?その台詞そっくりそのままお返しするよ。」
「何?」
「私に怪我させたら、どうなるか解ってる?」
「はぁ?この期に及んで命乞いか。」
「いいえ、貴女方を思って言って」
「ごちゃごちゃうるせーんだよっ!歯を食いしばれっ!」
「彼、何て仰るのカナー?」
「!?」
顔面に近づく拳がギリギリで止まる。彼、と言う言葉に反応したようだ。全くやっぱり解ってないじゃん。
「ボッコボコにされた私を目にして、君たちの愛して病まないオトメン君は何て言うかな
?無論君たちに対して。」
「そっそんなの、ウチらだってばれない。」
「まぁーね、でも噂って流れるの早いし、貴女達がよってたかって恐い顔して私を連れ屋上へ連れ出した…っていう目撃証言はすぐに出るでしょう。」
「っ…。」
私の自信に満ち溢れた話に顔色を変える八雲達。バカねどーせ拉致するなら帰宅途中でも
狙えばいいものの、人が沢山いる廊下を普通に通るなんて。
「へっ!そ、そんなの証拠にならないし、あの爽やかオトメン様がそんな話、信じる訳が
…。」
「それもそうだね、じゃー好きなダケ殴れば?」
「くぅ…」
少なくとも彼女達は、彼が私に好意を寄せていると思い込んでいるようで、葛藤を思わせるように拳を震わせ。この説明の仕方により、奴らの質問を答える事もなく、殺気も華麗に沈め。全ては読み通り、我ながら素晴しい、ちょっぴり彼女達が気の毒に見えてきた。
モテ男に好かれればこういう展開となる、私は上手いことそんな彼女達の痛い所をついてやった。
「て、てめぇーー…。」
顔を真っ赤にさせこれ以上にないくらい鬼の形相を浮かばせ。ダガ動揺を隠せていない様子で。殴りはせず、代わりに目で攻撃しているみたいで。
すると、3時間目のチャイムが鳴り響き、私は固まる彼女達を避け、教室へ戻ることに。
扉付近で1度足を止め、戻ろうとしない彼女達へ振り向き、こう捨て台詞を吐く。
「言ったでしょう?君たちを傷つけたくないって、その歪んだハートを」
「!!」
扉を閉める音が静かに鳴り響く、何かどっちが虐めっ子か判らなくなってきた。
「あいつ……。」
静かに醜い炎を燃やし、閉まった扉をひたすら睨み続ける八雲。