想いを言葉にかえられなくても《アラベクス》-10
思いも寄らない行動。苺が懸命に頭を上下させる。
……苺はいつから、こんな風に口で愛する様になったのだろう……
俺は男の影を払拭する様に頭を横に振る。今更考えたって仕方ない。解っている…そんなの…解っているのに。……迫り来る射精感が恨めしい。
ぐちゅ…ぢゅぶ…ぐちゅ…ぢゅぶ…
一定のリズム…。懸命に動く唇…。全てが悔しくて…頭を撫でていた手に力が入る。
「んっうぅっ!!っうっ」
抗議の声を漏らす苺を振り切り、ただ貪欲に腰を動かす。玉がせり上がり、ビクビクと痙攣しながら……白濁液を勢いよく吐き出した。
苺の唇から白濁液が収まりきれず零れ落ちる。息を整え、ずるりと引き抜く。
苺はためらう事無く何度かに分けて飲み込んだ。俺の顔をにっこりと見つめて。そして、思い立った様に服を集めに行った。
罪悪感……。嫉妬のまま苺の口を犯した。
ごろんとベッドに横たわり考える。……頭では解っている。どんなに歳月が経っても……俺はあの頃のままだ。全然成長出来てない。独占欲で醜い、昔と変わらないただのガキだ。情けなくて枕に顔を押し付ける。……苺の匂いがする。
「聖?」
ぺたぺたとフローリングを歩く音が響く。頭を上げて見ると、苺は俺が脱いだTシャツを着ている。かなりぶかぶかで、袖は肘まであり、裾はお尻まで隠れている。
「オレンジジュース飲む?」
ワンルームのこの部屋。頷くだけで意思の疎通が出来た。
「はい。」
手渡されたグラスは蜜蜂の絵柄がプリントされていた。確か…
「このグラスは…」
「うん。聖からもらったヤツだよ」
確かゲーセンで取って来たペアグラス。そういえば、部屋に置いてある縫いぐるみにも見覚えがある。
「この縫いぐるみも。あのキーホルダーも全部、聖が取って来たんだよ」
にっこり笑う苺に罪悪感で胸がいっぱいになる。
「ごめん…。さっきはつい……」
嫉妬に任せて…言い訳も出来ない。
「…?気持ち良かったんでしょ?謝んなくていいのに」
くすくすと笑いながら苺はオレンジジュースをゆっくり飲む。唇からオレンジ独特の甘酸っぱい香りが漂う。
「お風呂、はいろっ。もうすぐ沸くから」
そういえば奥の方から水音が聞こえる。振り向くと、ぺたぺたとフローリングを歩く音と共に、苺がバスルームに向かって行った。Tシャツの裾から伸びる足が、どんなグラビアアイドルよりも艶っぽくて…。先程吐き出したばかりなのに、愚息がまた反応を見せている。その背中に誘われる様に、俺もバスルームに向かった。
バスルームの手前でトイレに向かい、用を済ませると、すでにバスルーム内から苺の鼻歌が聞こえていた。俺も妙に嬉しい気分になり、笑みを浮かべてしまう。苺と風呂に入るのは子どもの頃以来だ。
下着を脱ぎながら、ふと洗面所の鏡に目をやる。見慣れたはずの顔なのに自分では無いようだ。心から幸せそうな顔、って言うのかな?だらしないと言えなくも無いけど。
前髪をいじったり、表情を変えたり…鏡と遊んでいたら苺が出て来てしまった。
「何?ナルシスト?百面相して楽しい?」
手厳しい指摘に思わず肩が下がる。
「いやな…。なんか顔、いつもより違う気がして…」
言い終わる前に顔をぐっと掴まれた。
「あたしと一緒にいるんだよ。仕事と同じ顔してたら…まずあたしがキレてるよ。」
そのまま唇がくっつく。苺が精一杯背伸びしたキス。唇がぷにっとくっつくキスだけど……顔を掴まれて屈んだ状態の俺だけど……さっきまでのキスの中で一番…衝撃的だった。