可愛いお姫様-5
「夜食、一緒にどうだい?」
召し使いから取り上げたお盆を見せると、それを見たジェノビアのお腹がク〜っと小さく鳴った。
目を丸くしていると彼女の顔が見る間に真っ赤に染まる。
「ね?」
「……はぃ……」
デレクシスがクスクス笑うとジェノビアは小さく縮こまりつつも部屋へ招き入れてくれたのだった。
ジェノビアの部屋には何度も訪れているが、今日はなんだか感じが違った。
何というか空気が違うというのか……デレクシスは失礼と思いつつも違和感を突き止める為に風を少し操る。
(香りが違う?)
いつものお香に混じって別の匂いがした。
他に誰か来ていたのかな?と考えたデレクシスの胸がズクンと傷む。
まるで嫉妬しているかの様な胸の痛みにデレクシスは愕然とした。
(……!そういう事か!)
全身全霊をかけて守りたいという気持ちになったのも。
別段、用も無いのに年に何度も足を運んでいたのも。
成人のお祝いとはいえ、わざわざ危険な黒海にまで鉱石を採りにいったのも。
ジェノビアの態度ひとつで一喜一憂する自分も。
あるひとつの感情から考えると、全て納得のいく答えだった。
ただ、相手があまりにも幼過ぎてその答えに行き当たらなかっただけ。
(うわぁ……どうしようかなぁ……)
まさか自分にロリコンの趣味があるとは……デレクシスは愕然としたまま片手で口元を覆った。
その時、お香に混じっていた匂いがハッキリとデレクシスの鼻に届く。
(これは……)
ジェノビアの身体から立ち昇る雌の匂い。
デレクシスの背筋がゾクリと震え、体内の雄が目を覚ました。
(うわっヤバいなぁ……やっぱり大人になってるじゃないか)
壮年のデレクシスにとっては嗅ぎ慣れた匂いは、女性が欲情している時の匂いだ。
まさか、可愛いお姫様がそんなゾクゾクする匂いを発するなど思ってもいなかったデレクシスは妙に緊張する。
(我慢我慢)
夜食に誘っておきながら今更出ていくワケにもいかず、良い大人が理性をふっ飛ばすワケにもいかない。
「おじ様?」
密かに挙動不審なデレクシスにジェノビアは首を傾げる。
「ああ、すまない」
デレクシスにとって、地獄の夜食会が始まろうとしていた。