和解-4
「杏、どうか幸せに…。」
恋人がこの先も大丈夫そうなのを見届け、街を歩いていると。
「先輩?」
図書館の扉から僕を見つけ、声を掛ける見慣れた高身長の眼鏡。
「加藤君っ!?」
彼とはあのコンクール以来会っていない、溜まりに溜まった想いもあるのだろう。
彼から今どうして病院に居ないのか問われ、これまでの経緯を語る。
人気の無い、図書館にある公園。彼の手には「個展とは…」などのタイトルの本があり。
「そんな、どうして受けないんですか?ドナー。」
当然の如く心配の声を挙げる友。
「だって、受けた所で…。」
「このまま死んでも良いって言うんですか?僕らを置いて、そんなの嫌ですっ!」
「加藤…君。」
「絵だって描きたいんでしょう、いつか個展を開きたいって…。」
「そうだけど…。」
次々と登録を勧めようとする加藤君。
「もう、良いんだ加藤君。僕はもう満足だよ、充分生きた。」
「……。」
「さっき、彼女に会った、そしたら彼女、笑ってた。」
「………。」
「彼女は偉いよ、ホント。最愛の人ともう会えないって言うのに、僕の頼みを聞いて
明るく笑ってた。これならもう彼女は大丈夫。」
「大丈夫な訳無いでしょうっ!!」
「!?」
突然、ベンチから腰を勢い良く上げ立ち上がり、怒鳴り出す。
「織原サンはもう大丈夫?それ本気で言ってるんですか?」
「……だ、だって。」
「先輩ってホント鈍感ですよねっ!」
「なっ!君に何が解るんだ?もうじきこの世に居られなく僕の気持ちなんか。」
「大好きな人が死んで大丈夫な人何て居ません!…そりゃー彼女は心の強い持ち主
でしょうから、普段は先輩の事を忘れ前向きに生きるでしょう……、でもっ!!
貴方に似た人を見かけた時、街でカップルを見かけた時、独りぼっちで暗い所に居る時
必ず想うでしょう、「彼は、もう居ないんだ…」「もう二度と、あの温もりを感じれない
んだ」って…。」
「!!」
彼の言葉に稲妻が走る。
「彼女には笑っていて欲しい、暗い顔何てして欲しくないって言いますけど、一番その
笑顔を壊してるのは他でも無い先輩自身じゃないんですか?」
「それは…。」
「彼女の事、今でも愛してますよね?」
「勿論!杏にはいつも。」
「痩せ我慢ではなく、ホント意味で嘘偽りの無い彼女の笑みが見たいのなら先輩の考えは
明らかに可笑しいですっ!」
「う…。」
「生きるチャンスがあるのにそれを棒に振るんですか?「これでいいんだ」と自分に言い聞かせ彼女を残しこの世を去っていくんですか?この先最愛の人の居ない世界に彼女を
一人残し、一生死ぬまで寂しい想いをさせるんですかっ?」
「……。」
僕はまた大事な事を見落としていた、やはり僕は何も解っていなかった。
「生きてください、そしてずっと傍に居てあげて下さい、それが最愛の人を幸せにする
唯一無二の方法です。」
「………。」
そうだ、僕は間違っていた。
杏が暗い顔をするのが僕にとって何よりの嫌いな事なのに。
彼女の為に、それに僕だって、明るい彼女と共に居たいっ!