なんて言うんですか劣等感-1
修と歩仁内が半ば強引に決めた、このキャンプ。
裏テーマが俺の「ドウテイ脱出計画」なだけに、不安半分期待半分で今日の日を迎えた。
そんな俺の思惑なんて知らない沙織は、相変わらず可愛くて、見れば見るほど好きって気持ちが込み上げて。
そうすると彼女の全てが欲しくなってしまうのは至極当然のことであり、不安と期待の割合が5:5から3:7くらいに変化する。
そして俺は、今日こそはって今までにないくらい、勇気が沸き上がってくるのを感じていた……のだが。
「沙織ちゃん、オレも小腹空いたからなんか食べたいな」
「あ、チョコならありますけど……」
「うん、それでいいや。あ、オレ運転中で手塞がってるから、食べさせてくれる?」
「え?」
「ほら、沙織ちゃん」
「……じゃ、じゃあ」
視界に入ってくるのは、沙織の細長い指が、小さなチョコを一粒つまんでいる所。
それが恐る恐る州作さんの口元に運ばれていくのを、歯噛みしながら睨む俺だった。
ギリギリ奥歯を噛み締めるもんだから、耳の下がジリジリ痛む。
だけど、そうでもしなきゃ、苛立ちを抑えることができなかった。
3列目には歩仁内と本間さん、そして2列目には俺と修と石澤さんが座っている車内。
前を向けば、州作さんが一生懸命沙織に話しかけているのか否が応でも目に飛び込んでくる。
対して沙織は、俺の存在を気にしてか、ぎこちない受け答えばかりである。
わかるよ、歩仁内のお兄さんだし、車出してもらってるし、邪険にできないのは。
だけど乗る前に、俺と付き合っていることを言えたんじゃねえの?
最初は州作さんにだけ抱いていた苛立ちが、ゆっくりジワジワ沙織にも撹拌していく。
「ほら、大山」
苛立つ俺を宥めるように、歩仁内が後ろからキンキンに冷えたペットボトルのお茶をよこしてきた。
「……サンキュ」
「ごめんな、兄貴のこと」
「いいよ、お前は悪くねえだろ」
パキッと蓋を開けて、冷たいお茶を胃に流し込んだけど、血が上った頭はまだまだ冷えそうにない。