なんて言うんですか劣等感-4
もう、どうしてくれんだよ。
その時はそれしか頭になかった。
チクチク嫌みを言うと、俯いたまま下唇を噛み締める彼女。
とことん追い詰めてやりたかった。
ため息ついたり、わざと沙織に“この後どうする?”って聞いたり。
そうこうしているうちに、彼女もついに涙目になりながら“帰るから”と言い出した。
その時の俺は、石澤さんに対する罪悪感よりも、これで沙織と二人きりになれるという浮かれた気持ちの方が大きかった。
だけどそうは問屋が卸さない。
浮かれる俺を待ち受けていたのは、沙織の鬼の形相だった。
その表情を、俺は一生忘れることはないだろう。
それほど、彼女の顔は怒りに満ちていた。
ヤバイ、と思った所で後の祭り。
次に待っていたのは、ひたすらに俺を責め立てる言葉。
でも、パニクッていた俺は、その時の沙織の言葉をよく覚えていない。
ただ、沙織にとって石澤さんがどれほど大事な友達であるかってことと、俺がとんでもなく酷いことをしていたということ、それはわかった。
そして、去り際の沙織の“大山くん、サイテー”って言葉とゴミを見るような冷たい視線だけは、今でもハッキリ覚えていた。
◇ ◇ ◇
「……大山くん、どうぞ」
ハッと我に返れば、目の前にはポッキーの箱。
石澤さんが、修とつまんでいたらしいそれを、こちらにも差し出してくれていた。
「あ、ありがとう……」
知らぬ間に俺のこめかみには、汗がうっすら浮かんでいた。
そんな俺を見る彼女の顔は、“大丈夫?”と言わんばかりの心配そうな顔だった。
恐らく、運転席と助手席の二人のことを気にかけてくれているのだろう。
……石澤さんは優しいなあ。
こうして気遣ってくれる石澤さんはすごくいい娘なのに、あの時の俺は、上辺だけを見てバカにして。
あの時の俺に会えるとしたら、ボコボコに殴ってやりてえ。