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好き…だぁーい好きなんだからっ!
【幼馴染 恋愛小説】

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最期の、デート-2

壁を通し梅雨の音色が耳に入りつつ、私はキッチンで夕飯に使用した汚れた皿に熱湯と
 泡をつける。

「……。」

皿に写る自分の顔を覗きつつ、同じ夜空の下、杏ちゃんとその母親と共に旅行へ赴いた
 息子を頭に思い浮かべる。

先生から「絆君が旅行へ行きたいと言っています」と電話越しに耳にした時は開いた口が
閉じれずにいた。先生は担当医の立場から既に許可を下し、後はご家族にその話をして
 そちらの方でもオーケーの確認を…と言う事らしく。

主人と相談し、行かせる事となりつつも、正直私は不服だった、息子は体が弱いのに
 聞いた話だと旅行の件は息子が言い出した事らしいが、杏ちゃんが振り回していないか
不安だ、もう持病で不幸にも後は命耐えるだけの子、なのに…。

「酷い雨だなぁー。」

ハーブの香りと湯気を全身から漂わせ、パジャマに身を纏い肩にタオルをかけた主人が
 そう呟き窓に視線を置く。

主人は基本的に息子の味方だ、息子が何かを言い出せば決まって「好きにやらせてやれ
 アイツはもう子供じゃない」とうろたえ反対の声を荒げる私を制止する。今回だって
 例外ではない。

そしてこの荒天候を眺め、こう呟く。

「アイツはぁー、大丈夫かなー。」
「……。」

独り言?いや私に言ってるのか?。長年この人の女房を務め、ぶっきら棒で言葉足らず
 とも意図は理解出来ているつもりだが、時より判らなくなる時もある。

どちらかは判らないが、私もその件でクイが残っているので、丁度全ての食器を皿洗い機
に入れ終えた所で、エプロンを外し居間の方へ足を運び。

「大丈夫よ、華サンもついてるし。」

幼馴染の母親同士と言う事でお互い下の名前で呼び合う仲で、まぁ仲が良いのかは未だ
 微妙だけど。
 華サンも…、と言葉にし、杏ちゃんの引率をアテにしてない意思表示をし。

「杏ちゃんはしっかりしてるぞー、ウチの愚息と違って元気で積極的で頼りになるし。」

フン!鼻の下伸ばしてデレデレと、これだから男は…。
 別に私は嫁いびりする女嫌いの女ではない!断じて。

「最期の旅行を好きな子と共に過ごす、やるなぁー!」
「んもぅ!暢気ねぇー!旅先で倒れたとかなったらどーするの!?」
「お前は相変わらず心配性だなぁー。」
「貴方が無頓着なだけよ。」

根本的に息が合った試しが無い、だからと言って性格不一致で別れるとか大袈裟な話し
 でもない。

夫婦揃って主人が開けたカーテンから見える窓へ毀れ落ちる雨水に視線を置く。

「でもアイツが旅先に持っていく荷物を届けてやったんだろ?」
「あ、アレは…一応母親ですし。」

なら息子の旅行は賛成なんだろ?とでも言いたげで。確かに息子の行動を後押ししたのは
事実、でもそれで息子の意向に心から賛同した訳でもなく。

「本当に、良いのか?僅かな可能性でも…」
「!!」

それは言うまでもなく、例のドナーを示し。
 私は、ふいに杏ちゃんがその事で私を問い詰めた日を想い返す。

それに関しても主人は賛成のようだ、でも私の合意も欲しい、そうでないとドナー登録は
行わないと…。

「何よ貴方まで、私は…私は。」

決して杏ちゃんに言われたからではない、それに関しての賛否が揺れている、何て。

それから主人はこれ以上会話を続けても無駄と感じたか、夜空を眺め口を閉だし。
 
私は自室へ戻り、そんな複雑な思いを抱き、ちょっと探し物をし、普段手につけない
 引き出しに手をつけると…。

「あら?」

一枚の画用紙を目にする。私はそれを無意識に手に取り眺める。
 それは約十年前に貰い大事に閉まった物である故、古く色が茶色く変色し所どころ
 痛んでいて。

画用紙の中には無邪気にでも丁寧に描かれた一輪の花がクレヨンで描かれており。

私はふいに、十年前の出来事を想い返す。







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