私、幸せです。-1
スイッチが入るきっかけなんて、ホントに些細なもんで。
まさか自分がこんなにも淫らな女だったなんて、夢にも思わなかった――。
◇
鼻唄混じりで掃除機をかける、爽やかな初夏の午前中。
一人娘の瑠璃(るり)が幼稚園に行ってる間が、家事の勝負どころなのだ。
掃除、洗濯、夕食の下ごしらえ……。
そんなルーチンワークを繰り返す私。
結婚6年目ともなれば、手際こそよくなれど、中だるみも出てくる。
それでも、平凡だけど穏やかな毎日を送れることに、幸せを噛み締めることができるのは、彼のおかげだろう。
そう思いながら、リビングの出窓に飾ってあるフォトフレームに視線を写す。
そこには、まだ若かりしころのウェディングドレス姿と白タキシードを着て、にっこり微笑む男女の姿があった。
旦那の小野寺輝政(おのでらてるまさ)は、市役所に勤める、33歳。
すこぶるイケメン! って言えたらいいんだけど、ごくごく普通のおじさんだ。
でも、優しいし、真面目だし、何よりも家族を大切にしてくれる。
そんな輝くんが夫で、私はなんて幸せなんだろうって思う。
イケメンで、浮気や不倫の心配をするより、刺激はなくとも幸せに暮らせるフツメンが、私にはぴったりなのだ。