10.知らずに上がった舞台-4
「イヤッ……! は、離して……。戸、……開くからっ……。……あっ!!」
裏側に恥垢をベットリと蔓らせていた男茎、その部分が左右の太ももの表面へ何度も擦りつけられている上に、先端からピュッと飛び出した先走りの汁が片足の太ももに縦に飛沫を飛ばし、トロッと流れ落ちる感触に、汚辱感で身震いする。開いたドアの先は無人で、漸く村本が手を離したが、悠花はまだ身を立て直せずに壁にもたれかかったままだった。
「……汚いっ。最悪……」
太ももにかけられた透明汁が一条の雫となって膝まで垂れ落ちてきている。ボストンの横ポケットに入っているティッシュでそれを拭おうと、バッグの開け口へ伸ばそうとした手を掴まれ強く引かれて壁から引き離された。
「痛っ……」
脚に付着した不浄の汁をそのままにエレベータから外に出された。入口のパネルで選択した、廊下の一番奥の部屋の番号が点滅している。そこへ向かわされるのだが、廊下もまたまだ公共の場所であるのに、何事もないように手を引いて歩く村本の股間では、チノパンの前が開いて中から男茎が屹立して、歩みを進める度に揺れていた。
「ちょ、ちょっとっ! し、しまってよ、それっ」
廊下に誰がいるわけでもなかったが、オープントゥを踏ん張って抵抗した。他の部屋の客が不意に出てくるかもしれないし、短い廊下とはいえ露出男と一緒に歩くのは危険すぎる。
「悠花、ちゃん。汚いなんて……、まだ、俺のザーメン慣れないんだぁ?」
脚をつっぱられて振り返った村本の下半身は、横から見ると露出している男茎が奇怪に見えた。その先端から噴射される汚穢の体液、前に抱かれた時も、悠花はそれが身に触れるのを必死に避けようとした。決して潔癖症ではないが、この男の卑劣な性楽の証に触れてしまうことには生理的に受け付けず、実際アパートの中で両手を繋がれながら、真上に向かって噴出した精液が降り注いできた時、トップス越しであっても狂いそうな拒絶感があった。
「な、慣れるわけないでしょ、そんなのっ。早くしまってよ」
「あはっ……」
村本が例のキモ笑いを浮かべると、ピュッと先端からしぶきが上がって廊下の床にポタポタ落ちた。横から見るとその勢いと量がより鮮明に思い知らされる。男茎はまるでそれそのものが別の生き物であるかのように、頭の先から体液をまき散らしながら脈動して動いていた。
「さっさと歩いて部屋に入ったらいいじゃん? ほら、すぐそこだよ」
と手を引かれる。迷っている暇はない。悠花は意を決して、露出している村本を追い越すくらいに早足で目的のドアの前に向かった。
「ほら、入って」
悠花の手でドアを開けさせようとする。村本を睨み顔で一瞥したあと腕を強く振り、掴まれている手首を切って、指をドアノブにかける。
「俺とセックスしたいなら、悠花ちゃんのその手で中に入って」
ノブを捻ろうとした瞬間、背後から声をかけられた。悠花の手でドアを開け、中に入るということは、男のセックスの要求を呑んだことと見なす、そんな意味を持たされて、思わず悠花は男を見返して、ふざけないで、と言葉を吐こうとした。
「くくっ……。ほら、早くぅ。俺もう、次の一発出したくて仕方がないんだからぁ」
村本は背を向けていた悠花の腰を背後から掴んで背伸びをし、その高い位置にあるヒップへ、ミニスカートの上から亀頭でつっついてくる。見なくても、あの粘液にまみれた亀頭のまとう透明汁がスカートに糸を引いて擦りつけられているであろうことは分かった。
「やめてっ……」
身を翻そうとするが、ガッチリ腰を掴まれている。前回は悠花を恭しく丁重に扱う場面もあったのに、決して悠花の肉体に危害はないものの、今日の男は漲る劣情を力によって訴えてきていた。