継続と介入と-2
拍車をかけた調子の悪さに緑川は医者から診断書を出してもらい、しばらく会社を休むことにした。気の引けることではあった。自分の荷を他人に負わせることになると思うと一層辛くなった。
緑川の調子が悪いというので、それならと、ズザンナの父親は自分たちに任せてくれるようズザンナを通じて伝えてきた。ズザンナは毎晩来てくれた。その話はあまりせず、洗濯やら掃除やらをして、祈りを上げて帰っていった。
この間、隣の藤原家と、三井家、つまりレナータの家とに進んでいることがあった。藤原は、児童相談所を介して三井に連絡を取り、レナータをお宅には帰せないこと、話によっては法的な措置が行われることを、責めることなく三井に伝えた。三井はそれでも取り乱して、これ以上のことは自分にはできないし、法律的な騒ぎは抱えきれない、お宅がレナータの面倒を見てでもしてくれないなら放っておいてもらいたいと言った。そして次の電話では、ままならない自分の運命を長々と藤原に嘆いた。レナータは自分が高校卒業後カナダに留学していた時に出来てしまった子供で、父親はわからないという。つまらなかった高校時代を取り返したい外国での解放感から起きたことだった。親に相談もできず、留学先の学校も黙って中退し、学費を充ててカナダで出産した。もともと裕福でもなく厳格な家庭であった三井家の反応は冷たく、若かった三井は荒れた。その後に知り合った男は何人もいたが、子連れの三井は真剣には相手にされなく終わった。三井の運命はいよいよ暗転し、今のような暮らしになっていったのだという。聞いて藤原は、レナータを養子にすることも考えてみましょうと言った。それでいいのかと藤原が念を押したら、いいと三井は返した。
藤原は喫茶店で三井と面会した。三井は、藤原が想像していた姿と全く異なる、華美でない美しいなりをした知的な顔つきの女性だった。しかし、長いあいだの生活からくる心の荒みが顔には表れていた。
レナータの、藤原家との養子縁組は滞りなく手続きが運ばれた。藤原は更に、これで生活を立て直してください、これまでのご苦労を生かされてと、三井が驚く額の小切手を差し出した。一貫して温かな態度の変わらない威厳あるこの実業家に、どうしてここまでしてくれるのかと三井が尋ねたとき、藤原は三井に聖書を渡し、
「神様のお許しがなければ何事も起こりえないと私たちは考えているのです。だから今回のことも、これまでのことも、必ず良き働きの種に違いありません。ただ、気持ちを神様に向けていなければそうはなりません。あなたも祈ってください。」
と言った。
もちろんこの二人は、事をここまで発展させた緑川とレナータとのこと、そしてズザンナの関わりを何も知らない。生身の親であるこの二人がそのことを知ったら態度は変わっていたかもしれない。しかし、藤原の言説自体はそれでもなお通用する道理であった。