開示-2
夕方だった。呼び鈴が鳴り、ズザンナですという声が聞こえた。緑川はすぐ起き上がりドアを開けた。
入ったズザンナははっと息を飲んで後ろを向き、中に立ったままドアを閉めた。おじさん、なにか穿いてくださいと小声で言われて、緑川はまたやったかと気がついた。奥には裸のレナータが寝ている。緑川はジャージを穿くと水をごくごくと飲んだ。そして、どうにでもなれと腹を決め、ズザンナを中に入れた。
「これが僕の今の暮らしだよ。」
と緑川は裸のレナータを抱き寄せて卓袱台のもとに座った。ズザンナも座った。ズザンナは半袖に、やはりいつものふわりとした長いスカートを穿いていた。どちらも色は白だった。珍しく水色のベルトをしていた。緑川の部屋を見回したズザンナは、また掃除に来ようと思った。
緑川に抱かれ、汗をかいて眠っている少女から、いつかの部屋のにおいをズザンナは思い出した。自分ととしも体つきもそんなに違わないこと、外国人の親がいることにズザンナは親しみを覚えた。しかし、緑川がその子の裸を撫でていることが恥ずかしく、何となく視線をそらしてしまうのだった。
「おじさんはこの子のためにお祈りする?」
とズザンナに聞かれ、緑川は愕然とする思いだった。近頃は読経もまれだった上に、こんなに会っていながら、レナータとその母親のためには祈る気持ちすら欠けていた。あまつさえ、訴訟しようとはどういう了見であろう。緑川は自分を恥じた。ところで何の用だったのかと尋ねる緑川にズザンナは、ただ会いたかったのと答えた。
話し声を聞いてレナータが目を覚ました。ズザンナを見るといぶかしそうな顔をし、緑川にくっついた。体を隠そうとはしなかった。だが、緑川に言われ、レナータは緑川の大きなティーシャツを被って着た。
レナータは、緑川のこの少女に対する態度が、子供に接するのと少し違うことを感じた。この人誰と聞くと、おとなりさんだと答えられた。
「ズザンナです。中一です。お友達になりましょう。」
とズザンナが握手を求めた。レナータは
「レナータです。五年生。」
とその手を握った。
「おじさん、みんなでまずお祈りしましょう。」
とズザンナが言った。そしてズザンナはカトリックの祈りを、緑川は十句観音経を唱えた。レナータは黙ってそのあいだ手を合わせていた。祈りのあとは厄が落ちたように気分が明るかった。
そのあと三人で夕食を摂ったが、食事はズザンナが頼んで母親に持ってきてもらった。三人はトランプをし、すごろくをし、またたくさん歌った。九時頃、緑川とズザンナに降車駅まで送られてレナータは帰っていった。
帰り道、緑川は先日の手紙のことを取り消そうとズザンナに持ちかけた。しかしズザンナは、心配せずに今は何も決めないでおきましょうと言い、きっと神様がいいようにしてくださいますと笑顔で加えた。