馴致-8
四つ這いになった恵の肛門を男の陰茎が出入りしている。
その速度は非常に遅く、決して痛みが出ないように配慮されたものだった。
「あっ……い…」
アナルに挿入されてから10分。
恵はすでにアナルセックスを許した事を後悔し始めていた。
妊娠リスクを回避しつつカウントを稼ぐにはこれしかないと覚悟を決めた。昨日は男が去った後、あまりの腹痛にすぐに排便してしまったが、今朝、自主的に二回目の浣腸をした時には、砂時計の砂が落ちきってからも相当な時間我慢をして腸内を綺麗にした。
あの男の事だ、アナルセックスをした後も容赦なくフェラチオさせるに違いない。もちろん、そんな事は真っ平御免だが、どうせしなければならないなら少しでも綺麗な方がいいに決まっている。
恵の推測は間違ってはいなかった。確かに男は恵の尻に突っ込んだチンポを事後に口で掃除させるつもりでいた。しかし、残念ながらその予測は方向においては正しかったが、幅が決定的に足りなかった。そして現在、その足りない部分が恵にとっては致命的だったことが判明しつつあった。
「…あ…うっ…」
男の陰茎がジワジワと恵の直腸に入り込んでくる。
あまりに遅い挿入に、肛門括約筋を押し開いて侵入してくる陰茎の太さも硬さも熱も否応なしに意識させられる。それは膣での性交とは異なり、ペニスに串刺しにされるような感覚だった。
ベッド上で四つ這いになった恵をバックで犯す男は、薄い尻肉を両手で掴み、恵の呼吸スピードに合わせて抽挿を行っている。
アナルセックスの経験が無く、アナルプラグやバイブ等でほぐしたわけでもない尻穴を犯すのだから、ローションをたっぷり使い、時間をかけて慣れさせないと痛みを与えてしまう。回数をこなし、マンコ同様の快感を味合わせて、尻穴を使用する事への抵抗感や嫌悪感を薄れさせるつもりの男にとって、この最初のアナルセックスは慎重に行うべきものだった。
「中々いいケツの穴だ。」
恵の意識をより尻穴に集中させる為、男は声をかけた。
男は恵を誘拐して以後、ほとんど問いかけの形で言葉がけをしていない。言葉の多くは答えを必要としない命令か感想のみだ。それは、恵に会話をさせない為だった。
人は会話の中で己の意志を他者に表明すると、その発した言葉自体に己が拘束されてしまう。例え全く同じ言葉を口にしたとしても、会話の中の発言は独り言とは違い、発言者と会話相手の間に、ある種の「約束」を発生させてしまう。それはほとんど意識されない程度の弱い拘束力しか持たないが、確実に発言した内容以外への変化を妨げる。
「具合はどうだ?」、「気持ちいいか?」といった質問をして、「気持ちいいわけない!」、「気持ち悪い!」などの答えを口にさせてしまえば、例えそう思っていなくてもその感覚は増幅され、それに添うように己の意識を作り替えてしまう。
男は恵に調教や快感に対する否定や拒否といったネガティブな言葉を口にさせない為に、恐怖心を与えただけでなく、会話にまで細心の注意を払っていた。
結果、恵は男の卑猥な声かけに対して「そんな事を褒められても嬉しくなんかない!」と思いはしても、口にはできずにいた。
いや、正直、それどころではなかった。
排泄器官を利用した性行為など、本来の恵にとっては慮外のものだ。こんな状況だからこそ「仕方ない」と諦めはしたが、その行為が女性にも性的快感をもたらすなどとは思いもしなかった。所詮、男性が気持ちいいだけの変態行為だと思い込んでいたのだ。
だが今、背後からアナルを出入りする陰茎は、徐々にだが確実に恵の快感を呼び起こしつつある。
“嘘…そんなはず無い…”
誘拐され散々変態的なセックスを強要された。だけど、私は変態なんかじゃない!お尻で感じるなんて、そんなこと有り得ない…。
そう、恵の想像には肛門性交がもたらす快感がどれほどのものかという視点が欠けていた。「誘拐犯とのセックスで感じるなんて嫌だ」と思いアナルセックスを選択した恵だったが、それは大きな間違いであった。
虎を避けるつもりで狼の群れに突っ込んだ恵は、今やその肢体を貪られつつある。
「あっ…あん!…」
膣と違い、奥まで突かれても痛みのでないアナル。
中で出されても妊娠しないアナル。
その二つのファクターにカウント稼ぎの『大義名分』と、この空間の『匿名性』が加わった現在、恵の快感を拒否する力は自身が思う以上に失われていた。更には学習能力と順応性の高さが災いし、度重なる異常行為に対する『慣れ』も生じている。
「…んっ…んっ…あっ…」
変容は確実に恵を蝕みつつあった。