馴致-3
その夜、恵はトイレに起きた。
オマルで用を足す事に羞恥心が疼かないでもなかったが、二度目とあってか、逡巡の時間は短かった。全裸のまま部屋の隅に有るオマルに向かう。
蓋を開ける。
そこに以前したはずの尿が溜まっていない事に恵は驚いた。
“いつの間に?”
自分の小便を男に片付けられた事に恥ずかしさを覚えはしたものの、恵のそれは男が以前にした尿と混ざっていたので、きっと男は気づかなかったはず…いや、気づかれたとしてももう大したことじゃないと恵は自分に言い聞かせた。
『ここでした事、された事は、男と私しか知らない』という認識…それは最強の、しかし禁断の免罪符であった。
貞操喪失の傷を癒す為にそれを使用してしまった恵にとって、己の小便を見られた事など、すでに些細な事に成り下がっていた。
用を足す為オマルに跨り下腹部に力を入れた時、排尿とは異なる感覚を陰部に感じた。
勢いよく排泄される小便とともに腟口から赤黒い液体がこぼれ落ちる。
「来ちゃった…。」
誰に言うでもなく一人ごちた。
「ん…んっ……」
恵は、小便を出し終わった男の陰茎を、自らの口腔で掃除していた。
昨夜から始まった生理は、「妊娠を回避できた」という事実を示し、恵を大いに安堵させたが、同時に、これからは「中出し前提のセックスを避けながらカウントを稼がなければならない」という状況に逆戻りしたことも示していた。
“昨夜は一気に7つ進んだ。でも、これでまた3つも難しくなる…”
両手が使える今日は何とか3回はクリアできるだろうが、それでは明日以降が続かない。
仁王立ちの男の腰に手を回し、陰嚢から亀頭までを舌先で何度も舐め上げながら、恵は今日の接触が分水嶺であることを感じていた。
10分程前。
部屋にやってきた男が、ベッドに横たわる恵から毛布を剥ぎ取った。
シーツと太ももを経血でべったり汚した恵を見て、男は「当分、マンコはお預けだな」と言い、ビニール袋からタンポンの箱を取り出して恵に使うよう促した。
普段はナプキン派で、滅多に使用しないタンポンの挿入に手間取っている間、男は手早くシーツを取り替え、オマルを掃除した。
全てが終わると、男は濡れタオルを作り、それを受け取った恵は下半身についた血を入念に拭った。
そして今は、その後の飲尿を経てフェラチオを行っている最中だ。
次第に大きさと硬さを増していく男の陰茎。しかしながら、恵の胸中は複雑だった。
正直、セックスが無いのはホッとする。
いくら仕方がないとはいえ、夫以外の男との性交で感じてしまう事は避けたい。もちろん妊娠も絶対に嫌だ。
しかし、セックス無しでカウントを効率よく稼ぐ事は難しい。しかも、その結果、監禁される時間が延びれば餓死やイラマチオによる窒息死の危険も増加することになる…。
口と手だけでカウントを稼がねばならない状況は昨夜以前と同じ…いや、腟を使ったセックスという切り札が使えなくなった分、さらに状況は厳しくなっていた。そして今度こそ恵には打つ手がない。
“とにかく、今日は手が使える。1回でも多く…できれば4回。フェラでいかせて、明日も手を使えるようにしなければ!”
恵の健気な決意は、無策であることを自ら意識しない為の欺瞞でしかなかったが、やけっぱちとも思えるその思いを成就させる為、恵は必死に誘拐犯の陰茎を舐めしゃぶっていた。
男の陰嚢を手で柔らかく揉みほぐしながら、頬が窪む程に口をすぼめてチンポをくわえ、ハトのように頭を前後に揺らす恵に、監禁当初の面影はすでに無い。
ほとんど経験が無く、稚拙で躊躇いがちだった口唇奉仕も、随分と上達し、さながらピンサロ嬢やセックスジャンキーの様に、みっともない顔で男の股間に吸い付いていた。